彼はなんだかつまらなさそーな顔をしています。
ずっと無表情で、むすっとしてて。ネメシスにそんな顔しているひとは特に多いけれど、その中でもなんだかずば抜けてつまらなさそーな顔をしています。なのである時、私は彼に話しかけてみたのです。するとつまらなさそーな目でこちらをみて、つまらなさそーに一言だけ。
「何か用か?用が無いなら消えろ」
なんて言ってきたのです。なんということでしょう。つまらなさそーな顔がよりつまらなさそーに歪みました。彼は人生楽しんでいるんでしょうか。
人生を楽しんでいるか?という点においてはバオ君やアグマ君もそうなんですが、彼らは楽しそうというよりは「生き生きとしている」という部分があるのでとくに私もやっかんだりしないのです。彼らの普及したい拳法のおかげなんだと思います。
「クリス君、クリス君」
「……なんだ?」
「人生楽しんでます?」
「……は?」
すごく素っ頓狂な顔でお前馬鹿か?と言われてしまいました。それで私はカチンときたのです。確かに突拍子もないかもしれませんが、率直に悪意を向けられたのはとても久しぶりだからです。
人生楽しいとか、その体のことをあの口から言わせてやろうと私は躍起になり始めました。クリス君について回って話しかけるようになりました。クリス君はひたすらに私のことを避けようとし、それでも私はクリス君を追いかけて、その姿はストーカーのようだとヨハネス君に言われたわけですが私はそんなことお構いなしでした。
「クリス君はなぜネメシスにいるのですか?」
「依頼だから」
「お金のためなのですね」
「そうだ。だからなんだ」
「お金があるとクリス君は楽しいですか?」
「別に」
そんなそっけないクリス君に粘着質にも張り付きまわった私は最近やっとまともに会話してもらえるようになりました。なんで俺に構うのかわからない、と彼は言ってから、変わってるな、とちょっと笑ってくれたのです。そうです、笑ってくれたのです。その顔をもう一度見るためにそれからも粘着質に彼の後を追ったのです。
「お前はなんで俺のことなんか追いかけてくるんだ?」
「はて……なにか最初は理由があったのですが、忘れてしまいました」
「忘れたのかよ」
「なにか目的があってクリス君とお話ししたかったのですが、お話することそのものがいつのまにか目的になってました」
「あぁ、そういうのなんていうんだったかな……」
「鳥でいう刷り込みというやつですね」
「そうだ、それだ」
そう言ってお前は鳥と同レベルなんだな、とからかってきたのでそんなことはないと怒りかえしました。彼はいたずらっ子のように人の悪そうな笑みを浮かべてましたが、そんなクリス君も素敵だから良しとしましょう。
「おい……」
「はいなんでしょう?」
「ヨハネスの指示を待てといわれたんだが、あいつはどこにいるんだ」
「彼は気まぐれですからねぇ……部屋じゃないですか?」
彼にドン引きされるので大騒ぎはしませんが、ついに彼は名前で呼んでくれるようになりました。今日はお赤飯です。
だんだん隣にいることが当たりまえになってきて、お仕事とかも一緒になるようになりました。最初クリス君に近づいたのに目的があったこと事態さえそろそろ忘れてかけてきています。
「」
「はいなんでしょう?」
「俺、お前のこと好きだ」
「……突然ですね」
「そんなもんだろ、普通」
なんとクリス君に告白されてしまいました。
結構そっけないけれど、確かに私に好きって言ってくれました。隣にいるのが当たり前になったこの頃、時々無性に一緒にいるのがつらいと感じていたのは、どうやら恋の病のようでした。言われるとすっきりとしたのです。
だからいつもなら一緒にいてうれしいとか楽しいとか感じるところがむかむかと痛んでいたのですね。
「そうですね、私も好きです。クリス君のこと」
「好き、って言わなかったらどうしてやろうかと思ってた」
「どうしてやろう……ですか」
「……そうだな、お前を殺して俺も死ぬ……とか?」
「古典的ですね」
そう言って私たちは笑いあいました。はて、出会ってからどれくらいの日がたったことだったのか、一日一日を数えながら過ごしてなかった私にはすっかりわからなくなりました。
だけど一つだけ、ぽっと思い浮かんだ言葉がありました。そういえばこんなくだらないことがきっかけだったかもしれません。
「そういえばクリス君」
「なんだ?」
「人生楽しんでますか?」
そう聞くと、彼も思い当たる節があったようで、一瞬だけあっけにとられてその次には笑ってました。懐かしいな、そのセリフ、っていって笑いました。
それから頭を撫でて、私の前髪をかきあげたところにキスを落として、口端をあげました。
「楽しいかもな」
「なにやら貢献できたようでなによりです」