「はーい、お馬鹿さん一人ご案内でーす」
「……くっ」
屈辱だ、と露骨にクリスは顔を歪めた。もちろんそんな表情をするであろうと見越した上での盛大な嫌みなので、思った通りの顔をしてくれて私はとても満足だ。
「はいはい、大人しく寝てる」
「チッ、分かったよ」
クリスが熱を出した。理由は何かと言うと、バオと揉めて川辺でベイバトルへ発展、必殺転技をかましたことによる足場の破壊、そして川への落下だ。
なぜバオと揉めたのかは知らないが、熱くなった二人はびしょ濡れ構わずバトルを長時間に渡ってやったということで、まぁ案の定風邪をひくわけで。
「ほんと馬鹿よねぇ」
大人しく軽装でベッドに寝る彼を見てわざとらしく音をたてて笑う。
ちなみに、同じことをしたバオも例外ではなく、先ほど彼の世話をするアグマとため息を交わしてきたばかりである。
「知るか、アイツが悪い」
「アンタも悪い」
「……げほっ、げほ」
「ほら。自分の体なんだから、もっと労ってあげなさいよ」
心配するじゃない、と小さく呟いた。彼に聞こえているかは分からないが、照れくさいので聞こえてないといい。
「という訳でご飯と薬を持ってきました。ほら起きる」
上体を起こす手伝いをすると、ダルいのかイマイチ焦点が合ってない。そしてちょっと腕や背中が熱い。クリスはいつも強がっているのでこんな姿は新鮮だ。
「なんかダルそう」
「……正直、いらないんだが」
「それは却下」
食べて薬を飲まなければ治るものも治らない。ぼんやりとしている彼は、食べる気力も無さそうだ。私はしばらく手元のおじやを眺めてから、レンゲを手にとって彼の口元に運ぶ。
「……なんのつもりだ」
「ダルそうだから食べさせてあげる。ほら、あーん」
「……必要ない」
「ある。ほら!早く!!」
私が根気強く口先で粘ると、抵抗があるのだろうか少し戸惑って、そして食べる。レンゲを抜くと、クリスは咀嚼して飲み込む。飲み込むタイミングに合わせてまた運び、その繰り返し。
「はい、あーん」
「……それ、やめろ」
「いや」
「…………」
しばらくして私のかけ声に抵抗を覚えたクリスは私を睨みつけるが、全く効果なんて無い。私は笑顔で要求を突っぱねた。
「クリスがこんなに可愛いなら毎日熱でいてほしいわ」
餌付けしているような気持ちで、可愛さから彼に愛嬌が沸いてきた。私はきっと頬の筋肉がゆるんでいるに違いないのだが、今日ばかりは仕方ないのでにやにやとした表情のままそう告げると、クリスは眉間に皺をよせた。
「……治ったら覚悟しておけ」
「はいはい」
餌付けされながら、彼はそっぽを向いた。耳や頬が赤いのが照れているせいなのか熱のせいなのかは、今日は言及しないであげますね、可愛いクリス君。