「Let's dancing!」
良い音立てて、指で風を切る音を立てながらそれはもう軽快に狭い校長室でダンスを踊る私の恋人TKは、よく言えば元気、悪く言えば落ちつきが無い。
(はて、どうしたものか)
彼が会議以外で大人しくしていたためしがあまりない。常に踊っているか動いているかそわそわしている。つまり落ちつきが無いの一言に尽きる訳だが……。最近、いっぺん会議以外で大人しくしている部分を見てみたい気がしてならない。
(どうしたら落ちつくんだろ……)
いやむしろ、落ちついてなくても止まっていれば十分だろう。彼に冷静さや落ちつきの良さを求めてもどうにもハードル高すぎてどうにもならない気がしてならないのだ。
私の中でTKが止まると考えられる要因は
①びっくりさせて止める
②恐怖を感じさせて止める
③緊張させて止める。
このどれかだろう。この選択肢案を出すにかれこれ二日くらいかかった。自分でも馬鹿らしいと思う。
「……TK、ちょっとこっちきて」
「Why?」
①は試して玉砕した。彼がダンスに集中していたせいで全く驚かそうとして聞いていないのだ。②は彼が何に恐怖を感じるのか分からないので却下。すると必然的に③になる。
「いいからこっち来て」
疑問符を浮かべながらもこちらにやってくるのを見て、私も彼に近づいて、そして右手を掴み上げる。
「?」
そのまま手をつなぐ。
「!!」
私の突然の行為に驚きながらも、珍しくおこなっていない恋人らしい行動に緊張して止まるかと思って彼を見ると、キョトンとした表情から見る見る笑顔になっている。
「Yeaaaaah!!」
嬉しいのかテンションが振り切れて上がったらしい。左手を私とつなぎながら残った体や腕でさらに激しく動き出すTK。どうやら逆効果だったらしい。
(駄目だ、TKのツボが全く分からない……)
大人しくさせる事は多分無理だ。私の諦めて溜息をつきながら彼とつないでいた右手の力を緩める。緩めた私の指先が彼の指先と触れたので、私は折角だからと彼の指と指の間に指を絡ませる。俗に言う恋人つなぎというやつだ。
「……っ!」
「ん?」
するりと自然な流れでつなぎ方を変更すると、ピタリとTKの動きが止まる。
いきなりの停止に私の方も呆気に取られていると、停止したTKの見る見る赤くなっていく。つなぐのは平気でも、恋人つなぎは駄目なのか。緊張でTKがピクリとも動かなくなった。
「ぶっ……くくく……あははは!」
彼の見事な停止っぷりに、私は腹の底から笑いが湧き出て止まらなくなった。