彼はどうしたのだろうか。誰もいない応接室に二人、特に話すこともなくのんびりと私が本を読んでいるとなにやら隣のTKの様子が全力でおかしい。そわそわして落ち着かない様子だ。
「………」
「………」
私が本に集中しているフリをしながらちらりと隣の様子をうかがうと、何やら葛藤しているのか近づいたり離れたりと10センチほどの距離を往復している。そして何よりも…手の動きが怪しい。
手があっちに行ったかと思うと引っ込んで、近づこうとして引っ込んで…全身が落ち着きないと思っていたが、その中でも手は特に落ちついていない。
「……あのさ、TK」
「っ!?!?」
「……ビビりすぎ」
声をかけられたTKは飛びあがって肩を震わせ、とりあえず両手をわたわたと動かした後、点数の悪いテストを隠すようにさっと両手を背中に隠した。
「さっきから気になってたんだけど、何してんの」
「What!?」
「いや悪いけどそれ私の台詞」
冷静になった私は意外と聞きだすのに時間がかかると分かったので読みかけていた本に栞を挟んで本を閉じた。
「TK」
「っ!?」
わたわたと右往左往して困り果てるTKにしびれを切らせた私は荒っぽい音をたてて本を机に置く。にっこり笑って彼に真正面から向き合う。
「何しようとしてたの」
「………」
「何しようとしてたの?」
「………Hug」
彼がぽつりとつぶやいた言葉に私は目が点になる。彼は唇を尖らせて口笛を吹き始めたので今度は私が黙ってしまった。ハグって言った。ハグってことは抱きしめたいって、つまりそう言っている。
腹の底から湧いて出た笑いを飲みこもうとしたが失敗して少し吹きだす。そんな私を見たTKがショックを受けたようにオーバーリアクションをする。
「ぶっ……くくく……」
「……」
「ごめんごめん、でもさ」
笑いをこらえるのに唇に手をやりながら私はTKを見て彼の胸を人差指でぽんとつついた。
「うちら恋人同士なんだよ?」
「……Yes」
「だったら遠慮せず抱きつけばいいじゃない」
「!」
そうして私は両手を広げて彼を呼びこむしぐさをすると、さっきまで沈んでいたTKは花が咲いたように明るくなる。
「!」
「TK、カモーン!」
彼のまねをして英語で彼に催促すれば、TKが思いっきり前から私を抱きしめた。