Write//K様


「……え、」

 いつものようにガイズのホームへ遊びに来たら、珍しいことにガイズは全員外出中で、いつもは部屋の奥にいるスプリンターさんもいなかった。

 まぁ、机の上にあたし宛の「Hold on a second, I'll be right back!」っていうドナからのメモがあったから……きっと1時間もしないうちに戻ってくるのかな?うーん、でもドナだし2時間かも。
 コレはちょっと暇しちゃうなぁドナのパソコンでも借りてゲームでもしてようかな、なんて思いながらピザボックス製のソファに腰を下ろそうとして――そこで、ふと、見慣れないものが目に入った。

「わぁ、鳥だ」

 インコ……じゃない。アレはもっと顔が、こう、丸い感じだった。
 えーっとえーっと、ああ、思い出せない。この間見た映画に出てきたはずなのに。

「ごめんね、アンタの名前って言うかなんて言うか……思い出せないや」

 可愛らしい容姿に惹かれるようにして手を伸ばしてみると、あの鳥特有で独特な跳ねるような歩き方で、小さな身体を数歩分下げられてしまった。

「あ、」

 残念だと思ったものの、よくよく考えれば"知らないでかい生き物"が急に触ろうとしたのだから、怯えて逃げるのは当然だ。

「ごめん、怖かったよね……って、それ」

 一歩だけ自分からも下がって、そこで初めて認識した。
 この小鳥、ラファと同じ布巻いてる。

「……ってことは、」

 まさか、この小鳥、ラファが飼ってるわけ?
 いやいやまさかそんな……あ、ううん、待って。

 ラファって見た目あんなゴリラだけど実はめっちゃ手先器用だし何気に家事能力高いし(あたしよりお菓子作るの上手かったからあの時はマジで凹んだ)面倒見いいし世話焼きだし――あと、何より小さい子に弱い。体格もそうだけど(だからあたしのこともレオと一緒になってけっこう過保護気味に扱ってくれたりする)(あたしのほうがちょっとだけ年上なのに)それこそ、子供とか――小動物とか。

「アンタ、アイツのペットなの?」

 首を傾げるように動く姿に、なんだか自然と頬が緩む。

「……違うか。アンタ、ラファのパートナーなの?」

 言葉が通じたのか――もしくは、ラファの名前に反応したのか。  チチ、と可愛い声を出してこっちを見上げる姿に、そうか、と納得する。(納得、だなんて……ドクタードリトルでもないくせに。)

「そっかー、ラファのパートナーだからお揃いなのかー」

 薄汚れている赤い布の下にあるくすんだ羽毛を見て、本来はもっと綺麗な色をしていたのだろうけど、生憎ココの連中は「着飾る前に綺麗に洗う」と言う重要な工程が頭からすっかりと抜けているどうしようもない奴ばかりなので(だって彼らは放っておいたら平気で一週間も風呂に入らなかったりする!)きっと、この子も「消毒」以外の意味で洗ってもらったことなんて無いんだろうなという方向へ思考が動く。

 あー、どうしよう。今なんか凄いガイズがムカつく。

「ねぇ、あたし、ラファの友達なん……ったぁ!」

 そっと小鳥へと手を伸ばすと、一気に近寄ってきた小鳥に思い切り指先を突かれた。
 慌てて手を引っ込めるが、小鳥は突き足りないような体でチョンチョンとピザボックスの上を飛び跳ねている。

「なにこの子……」

 思わず恨めしい声を上げてから、はた、と思う。

(もしかして、この子、)

 ……どうしよう、ものすごく可愛い。
 あと、ラファ、ちょっと後で説教してやる。

「……大丈夫」

 あたしが好きなのは赤いゴリラじゃないから。

 笑ってもう一度手を伸ばすと、やっぱり言葉が通じたかのように、今度は突くことなく手のひらの上に乗ってくれた。

(やばい今あたしドクタードリトル超えたってコレ)

 その、ないに等しい重さを持ち上げたところで、小鳥の羽がおかしい方向へ少し捩れているのが分かる。
 ああ、怪我してるから飛ばなかったのか……それで、世話をしているのか。

「アンタ……ああ、やっぱり女の子だ。あー、あと絶対この羽の色違うよね。アンタのこと……いや、アンタの種類を、テレビで見たことあるんだけど、もっと綺麗だったんだよ。洗ってもらったことないでしょ?」

 叔母が買っているオウムを思い出しつつそっと嘴の下を撫でてみると、どうやら正解だったようで「チチチ」と可愛い声で鳴いてくれた。

「ガイズには後でうーんと説教しておいて上げるからさ」

 ちょっとごめんね、と巻いてあった赤い布をそっと外させてもらう。

「その前に、ちょっとだけバスタブでガールズトークしない?」

 アンタがどんだけかわいいか、あの赤いゴリラに見せてあげようよ。
 そういうと、小鳥は確かに。

"イエス"

 と、応えてくれた。



「……おい、ドナ」
「うん、ごめん……コレばっかりは僕にも分からない」

 外出から一足先に戻ってきた赤と紫の亀は、その光景を見て呆然と立ち尽くしていた。
 ドナテロのベッドを占領してぐっすりと夢の中に旅立っているのは見慣れた赤い癖毛の少女なのだけれど――その、半円に形作られた手のひらの中で丸まって眠っているのは最初に会ったときのように綺麗な色をした小鳥で。

 いつの間にソコまで親しい間柄になったのか。
 と、言うか。

「……ドナ」
「ま、まだ何もしてないよ!?しゃ、写真とか……その、あの、寝顔の写真とか、と、撮ってないから!」

 慌ててゴーグルから手を離すドナテロに苦笑しつつ、ラファエロは眠る小鳥の首元に置かれていた赤い布の切れ端をそっと巻きつける。(もちろん、起こさないように)

「へぇ」
「……んだよ」
「いや、自分の物だって主張したいのかなって……いっ!?」

 何するの!と眠っている"女子"達を起こさないように配慮しつつ、ドナテロは突如襲った衝撃へ文句を言おうとラファエロへ向き直り――

「……そ、それっ、ぼぼぼぼぼ僕の……っ」
「あ?合ってんだろ?」

 ニヤリ、と意地悪く笑う兄弟に彼のハチマキと同じくらいに顔を赤くして口を金魚のようにパクパクとさせるドナテロの姿に、満足した顔でラファエロは爪楊枝を加え直した。

「焼き増し、1枚寄越せよ」
「……わ、わかってるよ」

 言われるがままにゴーグルを装着して、内蔵したカメラ機能のピントを合わせる。

 そして。
 赤いバンダナを巻いた小鳥と紫のバンダナを巻いた少女の寝顔に、そっと、シャッターを下ろしたのだった。

Afterword//K様

この後小鳥の飼い方をめっちゃ調べさせられる紫と、小鳥ちゃんの為に必死にお掃除させられる赤がいたとかどうとか…


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