Write//佐丸


「はぁ……」

ドナが、今日何度目かのため息をついた。それは、落胆の類ではなく、明らかに恍惚に分類されるタイプのものだ。私はそんなドナから、距離を置く。キーボードから机の端まで、私が今置ける最大限の距離だ。

今、家にはドナと私しかいない。他のみんなは出払っていて、飛べない私は彼が監督しやすいようにとモニターだらけの彼の机の上。だから、距離を置こうにも机の端が精一杯だった。

「はぁぁ……」

すごく声をかけたくない。けれど、ただ延々とこの恍惚なため息を聞き続ける方が正直なところ辛い。私は、決死の覚悟で鳴き声をあげた。どうした、と。

「え?ああ、うん、聞いてくれる?もうホント、君でいいから聞いてくれる?」
(大体予想つくから、若干嫌です)

私の頭に浮かぶのは…先日出会った、赤毛で天然パーマの女の子だ。
忘れていた清潔さを取り戻してくれた、私にとって唯一無二の女子の同志。ドナのゲームの相方。

「もうホント、彼女最高だよね。ほら見てよこのスコア。信じられる?これ普通にプレイしてたんじゃ無理だよ。彼女、僕の動きがわかってるみたいに補助してくれるんだよ。これって完全に以心伝心ってことだよね、まぁ僕も彼女が前線に出た時どう動くか大体わかるから、お互い様なのかな?でもこの場合のお互い様って、つまり、そういうことだよね?」

完全にスイッチの入ったドナは、画面を見ながら延々と話し始めた。
私がこの家に来てから、ドナは機械だけが友達のそっけない亀かと思っていた。
ただ、最近、例の赤毛の女の子が絡むと変なスイッチが入るということが分かり、考えを全て改めなくてはならなかった。

(そういうことって、どういうことなの)

わかりたいけど、わかりたくない。私が他の亀たちの帰還を待ち望んでいると、モニターの一つが電話のコールアイコンに変わる。

「わっ!ちょっ、いきなり…!待ってまだ準備が…!」

その画面を見て、ドナは慌ててハチマキを締め直したり、適当な布で顔を拭いたり。それに何か意味があるんだろうか。見た目としてはほとんど変わらないのに。
鳴り続けるコールがうるさくて、私はキーボードの一つに飛び乗った。接続音がして、コール画面が赤毛の女の子を映し出す。

『ドナ、出るの遅過ぎ。次のイベント前に打ち合わせしようって…』
「えっ?あ、ちょっと!なに勝手に接続して…!」
『あー!この間の小鳥ちゃん!』

久しくみた同志に、私は小さく声を上げた。向こうにも私の挨拶は聞こえたようで、久しぶりじゃん、と声があがる。

(その節はお世話になりました)
「あ、ああ、そういえば君たちこの間ずいぶん仲良くなってたっけ」
『あ、仲良く見えた?やった!』
「そりゃあ、もう」

「あれを見る度、嫉妬するレベルでね」とドナが小さく続けたので、私は首を傾げた。

(あれ、とは?)

ドナを見上げると、私の視線に気づいた彼はわざとらしく咳払いを一つ。どう見ても怪しいが、私にそれを探る術は、残念ながらない。

「えーっと次のイベントだよね。いいよ。何時からだっけ?」
『23時ジャスト。始まった瞬間スタートダッシュかけるから、カウント忘れないでよ』
「はいはい」
『あっ!それからあのアイテムだけど……』
「ああちょっと待って、一度に言わないで……!」

携帯端末を操作したドナテロは、行動を遮られて、操作途中の端末を机の上に投げ出した。こちらに滑ってきたそれを、机から落ちないように受け止める。――と思ったら、操作途中の端末に表示されている画像に目を見張った。

(これ、これって!!)

チチチ!ピィーッ!今までにないくらい変な声が喉から漏れて、落ち着かずに羽を羽ばたかせた。私の様子に、画面の向こうの子も、ドナも目を見開いてこちらを見る。

「な、なに?どうしたの、いきなり」
『小鳥ちゃんどうしたの?なにか変なものでも……ん?』
「あっ!!」

ドナは、私の足元から慌てて携帯端末を取ると懐にしまった。完全にボタンを押されてしまい、証拠を取り上げられた。私と、あの子が寝ていたところの写真。その証拠を。

『……ドナ、今のは?』
「な、なんのこと?」
『とぼけないで。今、こっちから見えてるそっちの画像をスクリーンショットとって、画像修正処理のプログラムにかけて高画質化したから、もうばれてるよ』
「なんでそんなプログラム作ってるんだよ!というか通話画像から高画質化って、どれだけのプログラム組んだんだよ!どう処理したらそうなるんだ!」
『それは後々、教えるから。それより今は……』
(女の子の寝顔を撮るなんて……)

女子二人(内訳に動物一匹)の視線を受けて、ドナは両手で顔を隠して無駄な抵抗を示した。

「僕だけが悪いんじゃないよ!ラファだってあの写真持ってるから!」
『問答無用!小鳥ちゃん、やっておしまい!』
(盗撮、死すべし!!)
「うわぁああぁぁ!!」

女の子からの指令と、個人的な恨みを持って、私はドナを襲撃した。女の子の同盟と絆は強く、そして画面と種族と時間を越えても、不滅なのだ。

Afterword//佐丸

2014年ちゃんの性格が違ったら本当にすみません。この後、帰ってきたラファも同じ刑に処されていると思います。


コラボ先の連載はBaiyouEki様をご覧ください!