※Attention

・マイヒーローの世界(新実写)へ、レンアイイデンシ(ニック亀)の2012ヒロインがディメンションしちゃった設定

・マイヒーロー10話と11話の間くらいの時間軸



Write//K様

「抗体のみあるいは抗体と補体で排除する系、抗体と食細胞により排除する系、IgE抗体と好酸球により排除する系……どれがお好みかな?」

 習慣になった彼女への定期検診が終わり彼女が帰った後で――不意に声が掛けられた。

「……え、」

 振り返ると、先日から僕らの”世界”へ飛び込んできてしまっている(少々話が長くなるのでその詳しい説明は省略させてもらう)”彼女”が、へらりと笑って立っていた。

「菌体外毒素産生菌に対しては抗体が抗毒素として毒素を中和するし、特異抗体……特にIgM抗体あたりかな?それが菌体表面に結合すると、補体古典経路が活性化され膜障害複合体が形成されて溶菌する方法とか」
「え、あの……」
「グラム陽性菌のようなタイプは菌体表面に厚いペプチドグリカン層を持っているから、補体の膜障害複合体形成による溶菌は起こりにくいっていう難点はある。こういうタイプに対しては、IgG抗体を結合させることによりオプソニン化を引き起こしてやれば、好中球などの食細胞が食菌してくれると思うんだ」
「……っ、」
「線虫や吸虫のような、”蠕虫”のような多細胞の病原体タイプだった場合は、IgE抗体を蠕虫表面に付着させさえすれば、自然と好酸球が結合して各種抗蠕虫物質を放出するはずだ」

 兄弟達と一緒に出掛けていたんじゃないのか、と言う疑問を投げかける余裕もないままに振り返ったままで固まる僕に、まるでテレビ欄を読み上げているかのようになんて事はない口調で話しかけてくる。

 そして最後に。

「彼女は”人間”なんだろう?」

 と、長いブロンドを揺らして問いでおしゃべりを締めくくった目の前の女性に、僕は……視線を逸らすことしかできなかった。

「ああ、言い方が悪かったね。別に君の知識や技術を認めていないわけではないし、責めている訳でもないんだよ」

 そんな僕の行動をどう勘違いしたのか、先ほどより幾分か優しげな色を含んだ声で弁解し。
 そして、ただ、と彼女は続けた。

「君よりかは人間のアレコレについて詳しいものでね。何か手助けになれば、と思ってね」

 それに、少しでも早く”彼女”の身体から不要なものを取り除いてやったほうが安心だろう?と、100%の正論を加えて。

(……わかって、る)

 喉の奥まで出掛かった言葉を必死に飲み込み、美味しくもない冷めたブラックコーヒーに口をつけた。
 苦さが、口の中よりも胸の中に広がる。

「ぼ、僕は」
「あー、コレは私の独り言なんだが」

 僕の言葉を遮って、彼女はいくつもあるキーボードの中から一つを選び出すと、モニターの中にゆっくりと文字を打ち込み始めた。

「初めて会ったときに、あの瞬間に、私はすでに心が奪われていたんだと思うんだ」

 じれったいほどにゆっくりとキーボードの上を動く指先のせいで(しかも左手の人差し指1本だけだ!)少しだけ苛立ちながら否応なしに彼女の独り言を聞くしかない。

「一目惚れ、というやつかな?ふふ、まさか自分がそうなるとは思わなかったよ」
 嬉しそうに笑う彼女の脳裏には、きっと、前に見せてもらったあの赤いハチマキのもう一人の”兄弟”の姿があるんだろう。

「いやまぁ、私はご覧の通り人間だし彼は亀だ。亀のミュータントだ。年齢差もあるし……いや、私のほうが年上だからこれはどうのこうの言えないんだが」

 人間の女性と、年下の亀のミュータント。
 どこかで聞いた組み合わせだ。

「でもねぇ、大好きなんだよ」

 あんな可愛い生き物他にいないし、正直、ときめきしかない。
 一瞬、通報したほうがいいかな?とは思ったけど、残念ながら僕には通報できる権限がないので(なにしろ曲がりなりにも彼女は人間で僕は亀のミュータントだ)黙っておくことにした。

「毎日顔を見たいし、どんな形でもいいから相手にして欲しい。声が聞きたくなったら電話もするし、触れたくなったら飛びついて……ああ、たまに避けられるとあの硬いコンクリートに顔面からぶつかる羽目になるのだけは勘弁だけどね」

 ああ、もちろん限度はわきまえているつもりだけどね。
 そうやって語る彼女の顔は、とても嬉しそうで。

「でも、そこに”それらしい口実”を作ってしまうと……」


”A lie cannot live.”


 モニターの中に、浮かび上がるそれ。

「……っ!」
「ああ、あと、よかったら見てくれ。人間の体液性免疫の簡易なデータだ。手書きだから少々見づらいかもしれないが……君になら余裕だろう、ジーニアス」

 ぱさり、と机の上に紙の束が落とされる音が響く。

「ねぇ、」

 そのまま立ち去ろうとする彼女の背中に、僕は、一つだけ問いかける。

「君は……君は、彼に伝えたの?」
「私かい?」

 彼女は、2秒ちょっとだけ戸惑うようにしてから振り返り。

「日常会話さ」

 びっくりするくらいに悲しい笑顔で、そう、答えてくれた――

Afterword//K様

ショタさえ絡まなければけっこう普通なんです。ショタさえ絡まなければ。


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