※Attention

・レンアイイデンシの世界(ニッ亀)へ、マイヒーロー(新実写)のヒロインがディメンションしちゃった設定

・向こうの夢主は一度世界線を越えて帰ってきている

・マイヒーロー完結済み前提



Write//佐丸

「ああもう何度言えばわかるんだ!」

 きらめく金髪を翻し、彼女は手にしている携帯電話に向かって心底不服そうに言葉を連ねた。いつもならぱちりと丸みを帯びている瞳は、眉間に寄せられているしわの深さに比例してに細められている。

「いいか、その失敗は私のものじゃない!どうして私がその尻拭いをしなければならないんだ!……は?私の助言?あれは助言じゃない、私が呟いた理論の一部をきみがいいように拾い上げて解釈しただけだろう!それは世間では助言とは言わない!きみは論文をコピーペーストで抜粋して楽をしようとする学生かなにかか?ちがうだろう、仮にも研究者がそんな中途半端な真似を……」

 世間一般でいう『美人』に分類される彼女は、そのビジュアルから想像できないほどたくましく理屈臭い口調で電話の相手にまくし立てた。その様子を、小さい亀たちはこなれた様子でスルーしている。
 ……小さいと形容したのは、私が知っている『ニンジャでミュータントでタートルでティーンエイジャーな彼ら』とはその姿があまりにも懸け離れていて、非常に可愛らしい姿をしているからだ。私の知っているガイズは、誰もが6~7フィートあり、ごつごつとした肌にたくましい体つきのティーンエイジャーと思わしき姿をしている。それに比べれば、この場所でカガイズと呼ばれている亀たちはひどく可愛らしい子亀だ。

「あれ、放置していてもいいの?」
「いいよ。僕たちに興奮してないだけ正常だと思うし」
(……それは正常なのかな)

 私とソファーで向かい合いながら手元で何か機械をいじっている小さなドナテロは、手元に視線を落としたまま返事を返してくれた。なにかに集中すると視線を外さないところは、『私の知っているドナテロ』と同じだ。

 ――突然だけど、私は世界線というものを越えてしまったらしい。
 なにが原因で、どうしてそうなったのかはわからない。この世界で言う『ディメンション』をしてしまった。こちらの世界にくる直前の記憶は曖昧で、私自身も覚えていない。
 ただ、ここがマンハッタンで、地下にミュータント化した4人の亀と1人のネズミが、私のよく知っている名前で生活しているということだ。そして、マンハッタンにあった私の家がなくなっていた。

 と、そこまでのとんでもない事情を説明したところ……この地下の家に出入りしていた金髪の美女が「ああそれなら私も覚えがあるぞ。きみは世界線を越えてしまったんだな」とあっさりと言い放ったのだから驚いた。そんな彼女が、上歯一本かけたこの世界のドナテロと協力して、私のことを帰そうとしてくれていたのだが……そこで、彼女の携帯が鳴り響いたのである。電話に出て数秒話を聞くなり、彼女は電話の向こうにいる相手にまくしたて始め、ことは冒頭に戻る。

「そもそも、私がオフの時は連絡してくるなと言っただろう!私は今非常に忙しいんだ!疲れ切った頭を精神的物理的共に癒している時間なんだ、邪魔しないでくれ!……ホスト?そんな不純極まりないものと一緒にしないでくれないかな。私が相手にしているのはこの世界に降り立った天上の天使なんだからな。いやここがどこだか教えるわけないだろう。誰が好き好んでこの天使たちを見せるものか!……だからホストじゃないと言っているだろうが!!」

 金髪美人の彼女は、酷く興奮しながらも時折恍惚としていて、かつどこか妙に迫力がある。……なるほど、さっき言っていた言葉がよくわかった。私が視線を戻すと、手元を見ていたドナテロは一瞬だけこちらを一瞥した。その目は「ほらね」と同意を求めている。

「まぁ、あの人がとんでもなく頭がいいのは認めるけどね」
「うん、すごい人ってねじが抜けてるっていうけど本当なんだ……」
「ああもうわかった、わかった!仕方ないから一度だけ戻る。ただし10分だけだ!!」

 話が終わった彼女は、怒り心頭といった様子で電話を切った。小さなため息をつき、綺麗な瞳がすいとこちらに向けられる。

「聞こえていただろう?私は少しだけあちらに戻るよ」
「うん、わかった」

 ドナテロが相変わらず手元を見たまま返答すると、ソファーの背もたれに小さなミケランジェロがひょいと顔を出した。

「えぇ~もう帰っちゃうの?」
「帰りはしないよ、マイキー。すこし外に出てくるだけだ」
「それじゃあ、ボク地上までお見送りしてこよっかなぁ」
「いいよいいよ、ぜひしてほしいね。そのまま家まで……」
「それはちょっと無理!」

 そんなバッサリとした笑顔も本当に可愛らしいな!と言いながら金髪の彼女はいつの間にか取り出した携帯でミケランジェロのことをバシャバシャと連写している。その光景にツッコミは入らず、むしろその行為がもはや許容されているのか、さして気にも留めていない様子で小さなレオナルドも立ち上がった。

「ああちょうどいい、俺も外に行く」
「レオもお見送りしてくれるのか!これぞ両手に花……いや天使!」
「はいはいわかったから、行くぞ。ドナ、その人のことを頼んだ」
「んー……」

 ご丁寧に私のことを気にかけてくれた小さなレオナルドの言葉に対し、ドナテロは生返事を返す。それを確認したレオナルドは、それはそれは嬉しそうな表情の彼女の隣りに並び、反対側に並んだミケランジェロと三人並んで外に出ようとした。その時――

「今戻った」

 入れ替わりに帰ってきた小さなラファエロを見て、金髪の彼女が動きを止める。

(……どうしたんだろう?)

 微かに拳を震わせた彼女は、両腕を大きく広げて――そのまま、ラファエロへの元へと突っ込んでいった。

「ラファエロ……やっと会えた、待っていたよ!!」
「な、なんだよ。しょっちゅう会ってんだろ」
「いいや。今日はレオナルドもドナテロもミケランジェロも抱きしめたが……きみのことはまだ抱きしめてないんだ!」
「はぁ!?」
「さあ抱きしめさせてくれ!今日の分のラファエロを充電させてくれ!」

 ぎゃあああなんてラファエロの悲鳴と、悟りを開いたような真顔のレオナルド。そして菩薩のような笑みを浮かべたまま助けないミケランジェロ。何もなかったかのように手元に没頭するドナテロ。そして抵抗するラファエロにほおずりしようとする金髪の女性。

(ドナ、ここがカオスだよ……)

 シリアスシーンでなければ、マイヒーローはお休みらしい。私のつぶやきは誰に届くこともなく、私は微笑ましいその情景を眺める事しかできなかった。

Afterword//佐丸

Kさん、2012年ちゃんの口調違っていたらすみません!あまりに楽しすぎたので、続きます。


コラボ先の連載はBaiyouEki様をご覧ください!