※Attention

・レンアイイデンシの世界(ニッ亀)へ、マイヒーロー(新実写)のヒロインがディメンションしちゃった設定

・向こうの夢主は一度世界線を越えて帰ってきている

・マイヒーロー完結済み前提



Write//佐丸

「今帰ったぞー!!」

 ものすごい勢いで走ってきた金髪の美女は、スイングドアを突き破るような勢いで体当たりして飛び込んできた。突然の帰宅に、私もラファエロも目を瞬かせる。彼女が出て行ってからまだ十数分も経っていないはずだ。

「ラファー!おねーちゃんが戻ったよ!すりすりさせて!!」
「おまえっ、ちょっ……!お前、尻拭いはどうした!」
「そんなものはどうだっていいんだ!ラファが寂しそうにこちらを見送っていたぞと道中レオに聞かされて、戻らずにはいられなくなった、ただそれだけのことだ!」
「ばっ、寂しがってねえよ!!」
(……すごい大変そう)

 飛び込んでくるなり、彼女は両手を大きく広げてラファエロを真正面から力一杯抱きしめた。ぐりぐりと欲望のままに頬ずりをして、たっぷりと頬ずりをして……そして、気付いた。思ったよりも腕の中の彼が抵抗しないことに。

「……どうした、ラファ。さっきは、足蹴にすらしていたというのに。まぁ私にとってそれすらご褒美以外のなにごとでないのは確かだけど……」
「ご褒美って……マジかよ……」
「事実だからね。否定する気はない」

 満足げに頷く彼女に、ラファエロは苦虫をかみ砕いたような表情を浮かべる。そして、ふいと顔を逸らして彼女から視線を外した。

「…………ったんだろーか」
「……えっ?」

 足蹴にはしないが、彼は彼女の額を手のひらで軽く押した。それが、彼なりの気遣った抵抗なのだろう。

「お前が……帰ってきたら労えっつったんだろーが」

 だから足蹴になんてしねーよ。そう言う彼の頬はかすかに紅潮していて、肌とハチマキの中間色に染まっている。それを見た彼女は、呆気にとられて呆然とする。珍しく、携帯カメラのシャッターを切る指が止まっていた。

「ラファ……」

 ふるふると肩が小さく震えてる。その瞳は丸く見開かれ、わずかに潤んでいるようだった。珍しく殊勝な彼女を見て、ラファは己が素直になったときの効果を思い知ったようだった。仕方ないものを見る目で、あきれたような視線を彼女に向ける。これからはもう少し手加減してやるか、なんて思っているのかもしれない。
 ――そんな、瞬間。

「ああああ私のラファが今日は本当に天使どころか大天使のような懐の広さ、いやこれならば熾天使どころか神すらひざまずく可愛さを披露しているのはいったいどういうことなんだ!?その照れているところも慈母のような呆れた表情もたまらないな!!私は今完全に疲労と空腹の及ばない悟りのような領域に入りつつあるぞ!ああラファ最高!!」

 今まで以上にしまりのない顔で、全力どころか200%の力でラファエロに頬ずりする彼女。さっきまで浮かべていたラファエロの(金髪の彼女曰く慈母のような)呆れた笑みはどこかに消え去り、彼は今日一番表情をひきつらせて恨むような視線を私に向けた。

(……責任は負いません)

 私が力無く首を横に振ると、怒りのまなざしがさらに強まるけれど、彼は高速で頬ずりをされている上にしっかりと彼女の腕にホールドされているので怖くなかった。檻の中に入っていれば、ライオンだって怖くないのだ。


   *  *  *


「……ふう」

 ほとんど抵抗がないのをいいことに、ラファエロがのぼせあげるまでスキンシップをとった彼女は満足そうに髪を後ろに払った。その腕の中の赤い子亀さんは、彼女の大きな胸にさんざ埋められ、酸欠になっているのか羞恥心がキャパシティ―オーバーしたのか、のびて気を失っている。気のせいだろうか、彼女の肌がつやつやしているように見えた。

「……ラファに入れ知恵をしたのは、きみか?」

 満足そうな彼女は、さっき払ったのとは反対側の髪も後ろに払い、落ち着いた視線をこちらに向ける。興奮している時とは大違いな、知的で凛とした目だ。

「入れ知恵じゃないよ、ただの独り言」
「なるほど。そいつは奇遇だ」
「……奇遇?」

 彼女は人差し指と親指で円を作り、それを額の少し上に当てた。

「ごちゃごちゃとした機械を背負い、ゴーグルをつけた7フィートほどある亀に、私も独り言をこぼした記憶がある」
「……!」
「ふふ、私たちは独り言仲間ということだ」
「……ああ、そうだったんだ」

 彼女の言うその亀が、私のよく知っている存在のことだと直感的に確信を持った。彼女と私はぜんぜん性格が違うのに、何か近しいものを感じていたのは……それは、彼女と私の世界が、互いを通じて交わったからなのだろう。
 そして、彼女は"彼"に独り言を零したのだという。私と同じように。知的な彼女の言葉は、さぞかし彼に響いたことだろう。もしかしたら、私たちが今こうしていられるのも、彼女のおかげなのかもしれない。
 私はソファーから立ち上がって、彼女に向かって軽く頭を下げた。

「おかげさまで、円満にすみました」
「そうか!それはよかった。ハッピーエンドがなによりだからな」
「そしたら、次は貴女達の番だね」

 そう言うと、彼女は少しだけ眉間にしわを寄せて困ったように笑みを浮かべる。

「そうなるといいんだがな」
「……なるよ」

 一歩、二歩、彼女に近づいて私は笑みを浮かべた。

「絶対に、なるよ」
「……ちなみに、根拠は?」
「ありません」
「ふむ、私は理系なんだがな……」

 そう言う彼女の表情にも笑みがにじんでいる。

「だが、先駆者の言うことは心に留めておこう」

 先駆者と言うほどの力もなければ、予言ができるわけでもない。それでも直感的な何かを信じて言い切ると、不思議と本当にそうなるような気がしてくる。
 いや、彼女たちにはそうなって欲しいと願っているのだ。

Afterword//佐丸

長々と2012年ちゃんをお借りしました!ありがとうございました!


コラボ先の連載はBaiyouEki様をご覧ください!