好きって素直に伝えたい
『おはよう。いえ、時間的にはこんばんはかしら?』
私がこの世界に来た時に、最初に出迎えてくれたのはゆりっぺだった。
自信満々の笑顔。微笑んだ横顔を照らす月の光。彼女はとても神秘的かつ神聖的で、初対面で私の心を一気に持って行った。
『突然だけど、死んだ世界戦線に入ってくれない?』
『はい』
『そうよね、最初は戸惑って断るわ――って、えぇええ!?』
即答だった。こんな綺麗で可愛らしい人が私を必要としているならば断る理由も何もない。
生前、格好いい男子も可愛い女子も好きだった私は喜んで!と彼女の両手をがしりと掴んだ。
『貴方の為に働きたいです』
『ふっ………何それ』
人差し指を折り曲げて口元にやり、彼女はくすくす笑う。
あぁこの人は可愛いなと真剣に思った。あれは、一目惚れと呼ぶのかもしれない。
「………」
目の前に広がる医務室の天井を見ながら、私はすぐさま倒れる前のことを思いだして歯ぎしりした。
なぶるような雨と曇天。土汚れたメンバーと、勝ち誇ったような生徒会長代理の笑み。撃たれた右目の痛み。私の叫びと、ゆりっぺを抱きしめる野田。
(――私じゃ、なかった)
純粋に悔しかった。こんなことを言ったら駄目なのかも知れないが、私が選ぶ立場だったらよかったのに、と思ってしまう。ベッドに置いてある付属品の真っ白い枕に爪を立てた。
「さん、起きた?」
透き通った大好きな声に、私は一気に頭が冴えて周りを見渡す。
そこには少し暗い顔のゆりっぺが、ベッドとベッドを仕切るカーテンを開けてこちらを覗いていた。
珍しく控えめに、入っていいかしら?と許可を求める彼女に「もちろん」と返せば、彼女はベッドの横に置いてある椅子に腰を掛けた。
「ゆりっぺ、傷の具合は大丈夫ですか?治りましたか?」
「ばっ、馬っ鹿じゃないの!?それあなたの事じゃない!」
少し控えめだった様子から一転。私の問いにいつもの剣幕でゆりっぺが怒り出しので、私は本当に彼女が大丈夫なんだと安心して、笑顔のまま彼女に甘んじて怒られる。
「…ったく、心配かけさせないでよ。死なないと分かってても無茶はいただけないわ」
「すいません。でも私と野田がゆりっぺ優先なのは知ってるでしょう?」
「知ってるけど……あなた達いつの間にか仲良くなったのよ」
彼女の言う『仲良く』が、直井と対峙したあの日、私と野田の連携のことを示しているのは分かっていた。だから私は彼女の言葉に苦笑する。
「仲良くなってないですよ。ゆりっぺを優先するという利害が一致したに過ぎません」
「……余計に分からないわよ」
珍しく暗い表情のままで、彼女は悔しそうに吐き捨てる。
「本当、分からないわ。あなた達はどうして私を……」
そんなに慕って尽くしてくれるの。
そう言おうとした彼女の唇を、私は人差し指でふさいだ。目を見開く彼女に私は微笑んだ。
「皆を守って引っ張ってくれる誰かさんを、誰かが守ってくれてもいいと思いませんか?」
「………」
「その誰かさんも、一人の女の子なんですよ?」
いつも通り、彼女の右手を取って手の甲にキスをした。
「私は女ですが、ゆりのことが好きです。それが守る理由にならないはずがありません」
「さん……」
私が小さく微笑むと、まるで応えるかのように。ゆりは暗い表情から一変して微笑んだ。
「……ありがとう」
窓から柔らかい光と風が舞い込んできた。
横から太陽の温かな光に照らされて笑う彼女は、私がゆりに尽くすと決めた最初に見たものより遥かに綺麗な笑顔だった。
好きって
素直に伝えたい
(沢山の人に愛されてると感じてほしいよ、愛しい人)