※R-18のため、背後注意
静かな部屋に二つの荒い息遣いが交じり合う。体に走るあまりの痛みに、私は寝転がっているベッドのシーツを無意識に握りしめた。
私の上に覆いかぶさる大きな影――ドナテロも、荒い息遣いで熱っぽくこちらを見つめていた。
衣服が取り払われた下半身が、ドナテロのもので繋がり合う。恋人としてはたまらなく幸せで最高の瞬間だが――正直な気持ちは勝手に喉の奥から零れ落ちた。
「し……死ぬ……」
「だ、だから言ったじゃないか!やめたほうがいいって!」
誰だ、腹上死上等だといった馬鹿野郎は。今すぐ殴ってやりたい気分だ。
そんなことを考えた途端、記憶の中の私が赤面するドナテロに向かって声高に腹上死上等だと叫んだ。
今すぐ過去に戻って殴ってやりたい。現実逃避にそんなことを考えながらも下半身が痛くてピクリとも動けない。
ぐう、と女性としてあるまじき悲鳴がドナテロのラボに木霊した。
「、大丈夫……じゃないよね」
「大丈夫じゃない……」
どうして失敗したのだ。
しっかりと鍵をかけたドナテロの牙城に即席のベッドを作り上げて彼を誘惑し、そしてついには私は彼と体の関係を持つまでに持ち込むことに成功した。
成功した、のだが――
「うう、ドナ……動かないで。本当に、死ぬ……」
ドナテロの亀としての性器を甘く見ていたことを思い知らされた。
最初こそぎこちない愛撫からスタートしたものの、時間がたつほど息は上がり、甘い雰囲気でその気にさせることができた。あれだけ拒否され、説教されたとは思えないほど上手くいったその作戦は大成功となる予定だったのだ。
それなのに、いざ挿入となって尻込みしたドナテロを押し切り、勃ちきる前の彼のものをローションで強引に挿し入れると――私のナカに入ったことで興奮しきったドナテロの自身は大きく膨れ上がったのだ。私の予想を、はるかに超えるほどの大きさに。
そして私は死にそうになり、動かないでほしいと彼に懇願したまま時間ばかりが過ぎている。
「その、一応僕たちはミュータントだから、亀の生態……特に生殖器の大きさは本来あるべきサイズの想定の半分しかないみたいなんだ。もし僕が亀の生殖器の規格をすべて引き継いでたらもっと大変なことになっていたんだよ?だから僕はやめるべきだって言ったし、待ってほしいって言ったし止めたよね」
「……はい……」
「それなのに君ってば僕より子供みたいな挑発してきて……いや惚れた弱みだとしてもああいう性的な挑発はやめてほしかったっていうか。ほ、本心を言えば、その、もちろんうれしいんだけどね?君のことを思うと複雑っていうか、複雑だから僕は止めようとしたし目も反らそうとしたのに君ってば強引に……」
(下痛い……苦しい……)
あまりの痛さにドナテロの説教も右から左に通り抜けていく。説教に夢中になっているドナは興奮を冷まそうとしているのか、目を閉じて限りなくこちらを見ないように努めているようだった。
(せっかく、初めてなのに……)
ロマンチックさはどこにもない。慌てる彼氏と、痛がる彼女。初体験失敗のテンプレートのような状況だ。よりにもよって女性である私のほうから押し切り啖呵を切ったのに、あまりの情けなさに涙が出てきそうだった。
今ここで泣いてしまえば、ぎりぎり保留になっている初夜の失敗が本当に「失敗」になってしまう。私は両手で顔を覆い、ぐっと涙をこらえた。
「だからもう、ここは僕のものが落ち着くのを待って……?」
私が静かになったことに気づき、ドナの不思議そうな声がてのひらの向こう側から聞こえてくる。情けない顔を見られるわけにいかなくて、そのまま顔を覆い続けた。
「ど、どうしたの?。そんなに痛い……?」
「……痛いっていうか、悔しい……」
「え……?」
「せっかくドナとできたのに、こんなにグダグダになって……ごめん……」
「……」
言葉にするとさっきより泣けてくる。目じりからにじみそうな雫をこらえればこらえるほど、顔が熱くなってこらえきれなくなる。
「#name2#。手、どけて?」
「……だめ。今すごく不細工……」
「……僕もダメ。顔、見せて」
珍しく迫力のあるトーンで拒否されると、ドナの大きなてのひらが私の両手首を束ねるようにしてつかんだ。抵抗する力もなく、隠していた私の手が顔の前からどかされてしまう。
ラボの照明がチカチカと目に突き刺さり、視界が明滅する。眩しさに目が慣れると、眼鏡をはずしたドナが目を細めて微笑んでいた。その頬は紅潮していて、一筋の汗がその頬を伝うとしたたり落ちている様は、見ているだけで色香を感じて胸が鈍く音を立てた。
「やっぱり、さっきの作戦はなし」
「え……作戦?」
「僕のものが落ち着くまで待って、ってやつ。……全然落ち着く気がしないから」
目の前にアンバーの瞳が迫ってきたと思ったら、ドナの舌が口内にそっと入ってくる。
私の口の中を堪能するように、人より少し長い舌が歯茎の側面をなぞられる。積極的なキスに驚いていると、舌を絡めとられて腰の後ろがぞくりと震えた。
「んっ……ド、ナ……」
「はっ……だめだよ、集中、して……」
感覚が集中している私の腰元を、ドナが両腕でしっかりと抱え込まれた。
ベッドの上で見上げながら深いキスを繰り返す。絡み合う唾液ががぴちゃりと音をたてる度に下腹部が収縮して、ドナの形をおぼえこんでいるように思える。頭の中に甘い霞がかかったように、ドナ以外のすべてが曖昧になっていった。
「はぁっ……!……ドナ……どこで覚えてきたの……」
「ええと、いろいろ……ネットで見たりとか、その……AV見たり、とか……」
(初実践で、こんなにすごいの……)
計算型ジーニアスのイメトレ恐るべし。ぼんやりする頭に、火照る体、そして体中が気持ちよさを訴えて甘いしびれが全身を巡っている。こっちから誘っておいたのに、いつの間にか主導権を握られていた。今の私に余裕なんて、かけらもない。
「……もしかして、うまくいった?」
「……え?うん。キス……すごかった」
「ホント!よ、よかった……って、そっちも嬉しいけど、そうじゃなくて」
喜びの表情をころころと変えるドナが、下に目線を下げる。
つられるように視線を移すと――先ほどまで死にそうとまで思ったドナの陰茎が、ゆるゆると私の入り口を往復していた。
「…………」
「あ、あれ?ダメだった!?痛くなければいいなと思って、君の意識をそらしながら慣らした、つもり、だった……んだけど…………」
キスとは違った水音が、意識した途端に耳奥に飛び込んできて顔が熱くなる。一度見てしまうとそこばかり意識してしまい、ドナのものが出入りする度、腰に、足先に、頭に、今までとは比較にならない甘い痺れが押し寄せた。
「っ…………!」
「……?」
「ふぁ……あ、ぅ……!」
「!!!!」
喉から自然と声が漏れ、足の指までピンと伸びきり、ドナの腰を挟むように内腿が痙攣する。体が常にどこかしら震えていて、伝えたいことが言葉にならない。下腹部がとろける感覚と浮遊感が、気持ちいいような、落ち着かないような、怖いような――それでいて、もっと先を見たいような。そんな複数の気持ちが混ざり合ったまま、私はドナの首に腕を絡めた。
そんな私に応えるように、彼の陰茎は徐々に確信を持ったしっかりとした動きで奥へと挿し進んでは離れていく。
「ドナ……っ!あっ、んんっ……!」
「っ……気持ち、いい……?」
言葉の代わりに彼の首元へ顔をうずめながら何度も頷くと、ごくりと唾を飲み込む音が耳元で聞こえる。はぁ、と震える彼の吐息を聞くたびに、体とは別に心が震えるようだった。
少しずつ抽送が速まると、接合部からは誰のものともわからない粘着質な白濁が、引き抜かれる度に零れ落ちる。それはまるで彼を求める私の気持ちが零れ落ちているかのようで――私は腕に力を込めた。
「はぁ……ドナ、ドナっ……!」
「……はっ、……え?な、なに……?」
私の声に我に返ったドナが、視線だけで私を見る。限りなく近い距離で熱っぽいアンバーの瞳を見返しながら、私は確かめたいことを喉から言葉を絞り出した。
「ドナは……きもち、い……?」
瞳の奥。とろけていたドナテロの瞳孔が、きゅっと開く。一瞬泣きそうな表情を浮かべたドナは、腰を引き寄せていた腕をほどくと、今度はその腕を私の背に回した。彼との距離がゼロになって、もう顔は見えない。
ただ、吐息交じりの熱っぽい声を震わせながら、私にだけ聞こえる声で彼は囁いた。
「幸せすぎて……気持ちよすぎて、死んじゃいそう……」
「は、はは……ダメだよ、死んじゃ。だって、これからだもんね」
「……今以上だなんて、腹上死する、かも」