「今日はこれで終いにするか」
「つ、疲れた…」
「あー、終わった!!」
膝に手をつく私の隣でボリスが地面に伏した。両手両足を投げ出して天井を見る。その様子を伺ったユーリが前髪をかきあげながら眉間に皺を寄せた。
「ボリス、スタミナ不足だ」
「あーそーかもなー、いでっ」
ユーリの説教をスルーして目を閉じたボリスの頭に、ユーリの強烈な蹴りがモロに入る。頭を押さえたボリスは涙目で仁王立ちする彼を見上げた。
「何すんだよ!!」
「あぁスタジアムで何か転がっているなと思ったが、ボリスだったか」
「んだと!!ユーリ、ちょっとそっち立て!!勝負だ!!」
「俺とやるなんて、余程負けたいのか?実はマゾなのか?」
ボリスとユーリが訓練の後にも関わらず一戦交えるらしく、二人ともスタジアムの両端へと言い合いをしながら足を運んだ。
「訓練の後によーやるわ…」
「…二人なりのコミュニケーションなんだろう」
「…あれが?」
不意に、呟いた独り言に返事が帰ってきた。声の主は分かっていたので彼――セルゲイの方は見ないで、怒声を向けながらバトルする二人を見る。隣の彼にしては珍しく、軽く鼻で笑った声が降ってきた。
「あれが、な」
生返事を返しながら怒声でわめくボリスと静かに挑発しているユーリを見比べて、笑う。
「確かに」
「…おい、!」
セルゲイと二人で笑っていると、ボリスと向かい合っていたユーリが突如こっちを向いて私を指さす。
「何よー?」
「キョロキョロするな!」
少し遠巻きのせいか、ユーリは声を大に、意味不明なことを言う。私とセルゲイは目を点にし、は?と声を漏らした。
「貴様は俺のバトルをしっかり見ていろ!!」
それだけ言うと、再びボリスとの喧嘩…及びバトルに戻る。私は呆然としていると、セルゲイのおし殺せきれていない笑いが耳に入った。
「…セルゲイ何て聞こえた?」
「"俺だけを見ていてくれ"…と聞こえたな」
「…ぷっ、く、あははは!」
堪えきれずに笑い出す。たまらず腹を抱えて屈みこんだ。セルゲイもそういう風に聞こえたなら確定だ。
「貴様ら笑っているな!!」
「…は?なんでアイツらあんな笑ってんの?」
「ははははっ!!」
「あれが噂のツンデレか…」
セルゲイの言葉が追い討ちになり、その後喋ることすら出来ない程に大笑いした。