「流太郎ー」
「…………」
「流太郎、ねー流太郎」
「…………」
「流太郎、流太郎流太郎流太郎流太郎ってばー!!」
「……ええい、静かにせい!」
どんなに無視を決め込んでも、私の妨害にしびれを切らしたらしい流太郎は、ついに柄にもなく大声を張り上げた。
「我の名を連呼して……、お前は何がしたいんじゃ?」
流太郎はまた大きな溜息を一つつくと、最初に本を読んでいた椅子へと本片手にまた戻る。私はそんな流太郎の前に正座して、ぶーたれた表情で視線を右下に落とした。
「……だって流太郎、折角の休みなのに構ってくれないし」
「我の休みだ、我の好きなように休ませてくれぬか……」
「……ちぇっ」
私の抗議は流太郎の正論によってばっさりと一刀両断。正論なだけに反論することができず私はふてくされて彼の部屋を出て行こうと立ち上がる。
「、待て」
「何よ?」
流太郎がこちらに来いと言うので、言うこと聞くのは癪だが私は眉間に皺を寄せた表情のまま彼に近づいていく。
近づいた途端、胸ぐらを掴まれて思いっきり前のめりになると、唇に一瞬だけふんわりと柔らかな感触がして、離された。
あまりの不意打ちに、呆然として近くにあった彼のベッドへへたり込んむ。私は目を見開いたまま呆気にとられて流太郎を見た。
「もうしばし待てばこれが読み終わる。構って欲しければ待っておれ」
本を視線に落としたまま、いつもの彼がそう告げる。
私の頬の筋肉がだらしなく段々と緩んでくる。しかしそんな間抜け顔を彼に見られたくないので彼のベッドの枕を引き寄せてそこに顔を埋めたまま一人足をばたつかせた。