ナイルが風邪を引いた。げほげほと、大会運営委員に与えられたら部屋のベッドに座りながら咳き込んでいた。
「何か持ってこようか?」
「……例えば」
「葛根湯とか」
「……それはどんな味だ?」
「効くよ」
「……どんな味だ?」
「効くよ」
「……いらん」
私が笑顔で効果があることを推すと、ナイルは味を想像したのか苦い顔をしてそっぽを向いた。甘党め。
「何を見ている」
「え、いや、別に……」
「その葛根湯とやらは飲まな……げほっ、げほ!ごほっ」
彼は座っていた状態からさらにしゃがみ込んだ。相当酷いようで、すぐには顔を上げなかったので私は駆け寄って、背中をさする。
「げほ……」
「寝てなさいよ」
「……いや、大丈夫だ」
嘘つけ、全然大丈夫そうな顔してないよ。眉尻を下げて、その上眉間に皺をゆせてこの男はよくもまぁそう言ったもんだ。ふう、と私はため息ひとつ。好きな男の苦しいところなんて、ちょっとしか見たくないわ。
「ね、ナイル」
「なん……っ……!?」
顔を上げてこちらを見る彼の唇を奪う。軽いキスじゃないくて、少しだけ深いキス。少しだけ長いキス。ナイルは顔を真っ赤にして驚いていた。可愛い。どうしようもない、こいつ男のくせに。
「……っ……!?」
「……なにか言いたそうね」
「そ、そんなことしたら伝染るだろう!お前は……っ!」
「他人に伝染ったら直るんでしょ、風邪って」
そう言って私がにこりと葛根湯のやりとりの時と同じ意地の悪い笑みを浮かべると、ナイルは少し染まる頬のまま一瞬苦い顔。思い悩む表情をして、最後には諦めた顔でため息。
「お前にはかなう気がしないな……はぁ」
「お褒めにあずかり光栄です」