「竜牙!」
「…また貴様か」

 彼が溜息をついた。それはそれは深い溜め息だ。
 私はにんまりと笑って竜牙をのぞき込んだ。彼は私の方をちらりと一瞥しただけで、再び視線を海の向こう側…地平線へと移す。海が見渡せる海際にそびえ立つ大木、竜牙はそこの幹に座っていた。

「貴様、こんな所にまでついて来るな」
「なんで。いいじゃない、減るもんじゃなし」
「………」

 竜牙は訝しげに眉間に皺を寄せてこちらを見た。その目は私について来る理由を問いかけていたので、私は誤魔化して笑う。わざわざ答えてあげるほど私は律儀じゃないのだ。

「竜牙、隣行っていい?」
「…好きにしろ」

 私は自分が立っている幹から竜牙が座っている幹へと飛び移る。着地の際思ったよりも幹が揺れて、私は思い切りよろける。

「う、わ!」

 ふらついた私の腕を支えるように掴んだのは、視線は未だ地平線行きの竜牙だった。しばらく呆然としていた私だったが、段々と顔の筋肉が緩んでだらしない顔になっていたに違いない。私は竜牙の本当にすぐ隣に寄り添うように腰をおろす。

「おい、近い」
「いいじゃん、私が落ちそうな時に便利だよ」
「知らん」

 そう言って此方を全く見ようとしない竜牙の、さっき私を支えた右手に私の左手を重ねた。彼は文句を何も言わない。もしかしたら興味がないだけかも知れないが、私はそうだとしても一向に構わなかった。

二人ぼっち

(彼の隣で彼に寄り添えるだけで私は幸せなのだ)