「ナイル構ってー……」
「やめろ、重い」
発端はそんなことだった。
昨日、ベイに夢中のナイルに後ろから抱きついた時に「重い」と言われた。ナイルに取ってはのしかかられて邪魔だと言いたかっただけなのは分かっている。けれど「重い」という単語がいかに女性(特に思春期)にドキツイ単語であるかを彼が知らなかったのだ。
「だ、大丈夫かなぁ……」
「お、俺にはあんまり大丈夫じゃ無さそうに見えたが……」
「、生きてる……?」
眉をハの字にして私の肩を叩いたダムレとベンケイに、私は机に突っ伏していた顔を上げた。できる限る険しく頼もしいと思われる笑顔を作って親指をびしりと立てる。
「大丈夫……ッ!」
「死んだ顔しとるぞ」
「気のせいだ!」
言い切るとまたパタリと食堂の机に突っ伏した。お腹が減ったが負けるわけにはいかない。誘惑に負けない訓練として、夕飯食べないのにダムレとベンケイに着いてきたのだ。食べてしまえば負けだ負けなのだ。
「しっかり~!死んじゃだめだよ~!!」
「……何をしているんだ?」
寸劇かと思わせる動作でガックリと机に伏した私に、合わせるかの様に揺さぶるダムレの小演劇がクライマックスを迎えてるとき、呆れるような声が食堂に響いた。
「ナイルか。が夕飯を食わないって言っとるんじゃ」
「確か昨日の夕飯も食べてなかったし、今日のお昼もあんまり食べてないんだ」
「……何か下らないことでも考えているんだろ。放っておけ」
机に伏せて話だけ聞いていた私は、ナイルの興味の無さそうな声に苛立ちを覚えた。私は思い切り机を叩いて立ち上がる。
「一体、誰の……」
私の行動に驚いた三人が驚愕の表情を浮かべていたが、目尻に微かに水滴を溜めている私は睨みつけた。
「一体誰のせいだと思ってんだコラァ!!」
「…………俺か!?」
意外だという顔で自分を指差すナイルの左右にダムレとベンケイが詰め寄る。
「何言ったんじゃナイル!」
「重いとか鏡見ろとかは女性には禁句だけど大丈夫!?」
「……あ」
男子達の原因究明会議は意外にもダムレの助言によりあっさりと閉会した。しかし私の怒りは収まらず、横目でちらりと私をみた二人は素早い動きでナイルから離れた。
「お、おい、……?」
「……もー知らん!私が餓死したら後悔しろ!馬鹿野郎!!」
「ちょっ、待て!」
焦った様子のナイルの声を背中で聞きながら私は食堂の扉を乱暴に締めた。