「キョウヤ知らない?」
「今日は見てないな」
「……そ」
私はあからさまに肩を落とした。ベンケイに訪ね、B-Pitに行きまどかに訪ね、ナイルに訪ねて玉砕だ。そんな私の様子にナイルが苦笑しながらも私の頭を撫でる。
「そう肩を落とすな。キョウヤの放浪癖は今に始まったものじゃないだろ?」
「……そうだけど」
分かってはいるが何か悔しい。なにせ今日はバレンタインデーだ。わざわざ丹誠込めて作ったチョコが無駄に終わるのは耐え難い。しかし力を込めすぎたせいで時間がかかり、もう11時半。もうすぐバレンタインデーすら終わってしまう切迫感に、私は焦っていた。
「何が何でも探してやる!」
「あ、おい!こんな深夜に一人出歩くな!」
ナイルの制止をごめんねお母さん!の一言で振り払うと、誰がお母さんだ!と怒りの返事が返ってきてちょっと笑う。よかった、まだ心の余裕はある。私は特に宛てもなくあちらこちらを走り回った。
「…………」
が、やはり見つからず、結局はワイルドファングのメンバーが宿泊しているホテルの屋上で私は息を切らしたまま、綺麗な夜景を睨みつけた。今だけはなによりもそれが忌々しく感じたからだ。
「……っ、盾神キョウヤのばっかやろーー!!」
車が絶え間なく通る騒がしい街にはそれが届くことはないが、思い切り叫ぶことで少しは気が軽くなった気がしないこともない。私が肩で息をすると、後ろから軽くどつかれて、前にのめり込む。
「誰が馬鹿やろうだ」
「……お前だコラァ!!」
売り言葉が飛んできたので思い切ら振り返って手に持っていた箱を顔面向かって投げつける。むかつくことに、反射神経の良いキョウヤには全く効かず、あっさり片手で受け止められた。
「……なんだこれ」
「ただのチョコだよ!!」
もう0時過ぎたがらバレンタインチョコでなくなったそれを怒りのままに押し付ける。バレンタインの魔法が解けたそれは、私の中ではただのお菓子だ。
「んだよ素直じゃねーな」
「は!?」
「バレンタイン渡したくて俺のこと探してたんだろ」
ナイルに聞いたとキョウヤが呟いたので、彼が「私がバレンタインチョコを渡したい」ということまで告げ口するなんて珍しいなと思ったが、ちょっと考えてさっきの『お母さん』の報復であることを思いつく。
そんな下らない話を考えいる私の額に柔らかなキスが落ちたので、私は勢いよく額を抑えながらキョウヤを見上げた。
「サンキューな」
照れくさいのかこちらを見ないキョウヤの手が私の髪をかき混ぜたので、私は文句をいいながら彼の赤い耳を見なかったフリした。