「、あのアイス食べたいのか?」
私の左手側にいるセルゲイが一つのアイス屋を指差した。私がキョトンとしていると、その顔を見た彼は苦笑する。
「食べたいのだろう?目が追ってた」
「……なぜバレたし」
不覚だと少し頬を膨らませた私の頭を優しく撫でた彼は、ゆっくりと私から離れてアイス屋へと足を向ける。その背中を見送りながら、私は感嘆のため息を一つ。
「……いい……」
「…………何がだよ」
悦に入っている私とは対称的な不機嫌な声が右手側から聞こえたが、それに私は何ら動じずに相変わらず視線はセルゲイの背中だった。しかしながら一緒に出掛けているのに無視をするのも忍びない、私は視線の先を一切変えずにそれに応える。
「全部……セルゲイって本当出来た男性だと思う……」
「ハァ?あのゴリラ体型のどこがいいんだよ」
そのボリスの発言に私は初めて視線を向けて睨みつける。ボリスはうっと呻いて目をそらしたが、口は相変わらず健在だ。
「図体でかいだけだろ」
「……分かってないなぁ……」
「……なんだよその目」
「そんなんだからボリスはモテないんだよ」
なんだと、と反論を言いかけたボリスの言葉を遮って私はまたセルゲイの背中を見つつ彼に分かるように解説を始めた。
「まず優しい。こっちを気遣いつつ気兼ねない雰囲気が一緒にいて楽しくさせてくれる」
「……へー」
「何よりも気付く。目で追ってるからって必ずしも欲しい訳じゃないのに、セルゲイはそこを差に気付く」
「……ほ、ほー……」
「そしてあんたが言った図体。言いようじゃそうかもしれないけど、言い方を変えれば包容力になる。男のポイントね」
「……そ、そーかよ……」
それからー……と続けかけたところでボリスは慌てて、ストップ!ストップ分かった!と私に静止をかけたのでやめた。まだまだ言えることはたくさんあったのに非常に残念だ。
「……で、つまりお前は、その、セルゲイのこと……」
「ん?好きだよ」
あからさまにショックを受けた表情で私を見たまま停止するボリスに私は笑う。いやいや、ボリスが前から私を慕ってくれているのは知ってたので笑っちゃいけないのは分かっているのだが。
「、ほら」
「あ、お帰り!ありがとう!」
「食べたかったらハッキリ言っていいんだからな」
「はーい!」
帰ってきたセルゲイの右手から例のアイスを貰い受けて、私は一緒に手渡されたスプーンでアイスを食べ始める。
「…………」
「……なんだ、ボリス」
静かにセルゲイを睨みつけるボリスに、彼は訳が分からず怪訝そうな表情を浮かべたが、とりあえず受け流して左手にあるものをボリスに差し出した。
「ほら、お前の分だ」
「なっ……!」
予想外に差し出された自分のアイスにボリスは戸惑う。そして私に視線を向けてきた彼にこれがお前等の差だとにんまり笑うと、彼は人間の器の差と悟ったのか悔しそうに顔を歪めてセルゲイを指差した。
「絶っっっ対お前には負けねぇからな!!!」