「あのー……シャウシン?」
「んー、どした?」
「いや、どしたじゃなくて……離してよ」
「いやだね」
先ほどから何回も繰り返されている問答が私たちの間をまた行き交う。しかし、問いかけられているシャウシンは何も無かったような表情をし、困惑した表情をしているのは私だけだった。私は手元のベイの整備を行っている真っ最中だったのだが、途中からふらりと現れたシャウシンが隣に座ったかと思うともたれかかってきた挙句に抱きついてきたものだから、私の作業は一向に進む気配がない。
「……どうしたのよ」
「ここ最近鍛錬鍛錬でお前に会っていなかったからさぁ」
「いや確かにそうだけど……」
「は俺に会うのが嫌?」
嫌なはず無いじゃない、と私が零すと対してチャウシンはなら問題ないよなーといいながら私の首元に顔をうずめて来た。いやいやいや問題なくない。彼が私を抱きしめている以上、身体的精神的共に私から落ち着きを奪うという意味では盛大に仕事を阻んでいるのは確実だ。
「チャウシン」
「…………」
私の整備していた手が完全に止まる。鼓動が盛大に邪魔をしてきているので精密な部分の調整などできるはずもないからだ。私はため息をひとつ、彼に向き合って自分も彼の背に手をまわした。
「今日は随分静かだけど……何かあったの?」
「……んー、気分」
なによそれと眉間に皺を寄せると、その眉間に触れるだけの軽いキスが降ってきた。さらに驚愕で停止すると、抱きしめてきた彼はやっとその手を離す。
「……おもしれー顔」
「いや、誰のせいよ!」
微かに微笑んだ彼は小さな声で目をつぶれよと囁く。からかわれて不満ではあるが、こんな真剣に恋人らしい甘ったるい雰囲気も久しぶりだったので流されて瞼を閉じる。すると顎に彼の細い指が添えられて微かに上に押される。彼の顔が近づくのが気配で分かった。部屋中が、部屋の中の空気さえ静まり返った。聞こえるのは自分の胸元にある器官が内側から大きく鳴っている。
と、そこで扉が開くがちゃりという音がして聞き慣れた話し声が中断した。
「え……、あ、す、すまん!!」
「っていうか、この場合私たちが悪いノ?」
「……チャウシン!!場所の分別をつけろといつもチーユン言ってるだろ!!」
雰囲気をぶち壊された私たちが残念な気持ちで扉を見やると、そこには赤面して慌てるダーシァンと、本心から自分たちが悪いのか不思議そうにするメイメイトと、厳しい顔をしたチーユンが居た。
中断されてしまったことが少し残念だと思いながら私が苦笑すると彼は私の頭を撫でた。
「ったく、少しはタイミングと空気を読めよ~」
「だったら自室でやればいいだろう!!!」
「そうネ!見ちゃったこっちも気まずいアル!!」
「メイメイは全然気まずそうじゃないけどな」とチーユンが彼女に突っ込みを入れると、思わぬ味方からの反論を食らった彼女は話の矛先をいともあっさりチャウシンからチーユンに切り替える。
「チーユンにはどうせこういう複雑なメオトゴコロが分からないネ!!」
「メイメイ、そういうのは乙女心というのではないか……?」
ダーシァンも加わりいつも通りの終わりない日常の会話が盛り上がり始めた頃、すっかり気を削がれた彼は頭を掻いて私の耳に唇を近づけて囁いた。
「……続きは部屋で、な!」
「……さいで」