「…………」

 足元がくすぐったい。待ち合わせをしていた陸橋下にいつまでも目的の人物が現れないものだから腹が立ってふて寝をしていたら、足元がくすぐったくなって私は両足をすり合わせる。

「…………」

 それでも足元のそれは去らない。それどころか集まってきているのかくすぐったい部位が腹、背中、首もとと増えて全く眠れる気がしないのだ。私は遂に起き上がった。

「あーもう!!」
「……何してるんだ」
「げっ……ヨハネス……いたの?」
「今来たとこだけど」

 彼はそう言って私を一瞥してから座り込むと、私の周りにたむろってるくすぐったさの正体たちに片手を差し出す。人差し指でこっちにこいと示しながら口の中でチッチッとならしてそれら――猫を誘う。

「……無理なの分かっててやるんだ。アンタも諦め悪いね」
「やかましい!」

 誘うヨハネスに対して猫たちは全く興味を示さない。それもそのはず、私はまたたびをつけてる訳でもないのに猫がよってくる体質なのだ。しかもかなり強力で、ヨハネスだって自然と猫が寄ってくる方にも関わらず、私と一緒だと何故か猫は私の方ばかり集まる。体質の強さのせいなのかもしれない。

「なんでお前の方ばっか……」

小さく呟いたのだろうが私には聞こえてしまった。ヨハネスは悔しいのだろう。私がいなければ彼は猫にモテモテなんだから。恨めしそうな目でこちらを見てくる彼に、私は立ち上がって彼の目の前に立つ。

「……一体なんだ」
「……お邪魔しまーす」

 しゃがみこんで私より視点の低い彼の目の前でくるりと背を向ける。首を傾げるヨハネスをお構いなしにその場に座り込んだ。彼を背もたれにして。

「おい、何のつもりだよ?」
「こうしたらヨハネスも猫と戯れられるじゃん」
「…………」

 彼を背もたれにしてると、耳元にため息と思われる生暖かい風が耳をくすぐった。両肩の上を通すように後ろから彼の腕が伸びる。立てている私の膝でアスレチックを楽しむ猫を一匹捕まえると、彼の満足そうな顔が私の右肩後ろから覗く。

「ちくしょー……」
「……なんだ、どうした?」
「何でもないよ馬鹿!」

 私がふてくされて呟いた言葉もあまり気にならなかったようで、ヨハネスは猫ばかり見ている。なのに私は猫ではなくてヨハネスばかりみていて、そんな近くでドキドキしているというのに彼は気にした様子も無く猫とじゃれる。猫はヨハネスに遊んで貰ってるというのに私の方ばかりみていてああもう。

いたちごっこ

(なによ、この全くもって不毛なサイクル)