彼がこの機関に来た時、お世話を始めたのは私でした。
最初は命令されたから。次は命令されてないけど彼に愛着が沸いたから。その次は離れろと言われたけど心配だったから。さらにその次は邪魔だと言われたけど隣にいたかったから。
そうして無関心から、隣にいることが当たり前になったころ、私と彼が所属していた機関は崩壊してしまった訳で。
「で、なんで君まだいるの」
その彼が、海岸で暇そうにしていたので隣に座っていたらなんと今更な返事がぽんと飛んで来たではありませんか。飛んできた方向を見れば全くこっちを見ずに、水平性の向こう側をぼんやりと眺めているダミアンの無表情な顔。
「なんでとか、言われた」
彼に答えたんじゃない。思ったことが口から出ただけだった。別にショックだった訳でもなく、思ったことが頭の中に反響しただけだったのだ。
「……は?」
「ダミアンはさ、自分が酸素吸って生きてることになんで?って思わないでしょ」
「急に、何」
「今私、それと同じ事聞かれたよ」
感じたことをそのまま口に出すと彼は眉間に皺を寄せて凄く微妙な表情をした。
私にとって、彼に愛着が沸いて離れがたくなった時から、彼の隣に居る事は空気を吸うことにひとしかった。当たり前で、当然。だから彼になんでと言われた時、実は心の奥底では傷ついていたのかもしれない。
「……って変人だよね」
「変人じゃないとダミアンの隣になんていられません」
「馬鹿にしてる?」
「してません」
こう言えばああ言う。そういってダミアンはため息をついた。
もしかして迷惑なのか?と心の中で今まで一度も思ったことが無い、でも可能性として無いわけじゃない疑問が出てきて急に不安になる。
「ダミアンは組織崩壊したけど私隣に居てうざくない?」
「は?今度はなに?」
「実は迷惑だったり、うっとおしかったりする?私はもうダミアンの隣に居るの空気みたいなもんだと思ってたんだけど」
だとしたらかなりショッキングな話以外の何物でもない。組織の中で、さりげなく古株だった私が隣に居たら便利だっただけなのかもしれない。しかしその組織は鋼銀河に崩壊させられて今はもうない。
「ねぇダミアン、どうなの?迷惑?」
急に出ていた不安は急加速して、彼の返答を待たずにあれやこれやと質問を矢継ぎ早に投げ込むと、額にダミアンの拳がめり込んだ。
「あ、だっ!」
「うるさい」
「やっぱり!!!」
「うるさいなぁ!さっきまで僕の隣に居る事が当たり前だったんでしょ、何急に不安になってるの!」
「……だって」
空気だって酸素だって、呼吸をする事を意識すると妙に難しく感じたりするのです。つまりは今それ。
私がそういうと、ダミアンは大きなため息をついて初めて私の方をまっすぐ見た。そして困った顔して、さっき拳をめり込ませた額を人差指でどつく。
「だってじゃない。……いなくなられたほうが落ち着かなくて迷惑だよ」
私は額を抑えながら呆気にとられた。
しばらくしたらじわじわと嬉しさがこみあげてきて、ダミアン!と名前呼んで飛びつこうとしたら、思いっきり避けられた。