しつこいと、ついてくるなと、私はかなりの回数そう突っぱねられたが挫けない粘着質な私は今日も今日とて愛しのあの方を追う足に懸念はない。
「竜牙様竜牙様ー!」
「…………」
最早彼が返事すらしないほど日常化している上でも、私のアプローチは続行される。
毎日毎日追い回しているといるのに私の胸の動悸は留まることを知らない。寧ろ追うごとに好きの限界を毎日更新するものだから、私の竜牙様への愛しさは一体どこまで向かっていくんだろう。
「おはよーございます!」
「…………」
「今日も相変わらず竜牙様はカッコいいですね!」
「……貴様は今日も本当におめでたい奴だな」
「はい、毎日毎日竜牙様に会える私は祝ってしかるべき幸福です!!」
竜牙様の大きなため息が廊下を反響した。それから足を速めて殺風景な廊下を歩き始めたので私もにこにこと(笑ってしまうのは幸せ故の自然現象だ)その後をついていく。しばらく静かな廊下に二人分の足音が響く。
(竜牙様の後ろ姿……カッコいいよ凄くカッコいい……)
うっとりと自分の幸せを噛みしめていると、指先に違和感。そして前につんのめる。施設内区域が変わる際の廊下に存在するシャッター用の段差、それに躓いたのに気付いても遅く、私は床にダイブした。
「うぶっ!」
変な声が出てしまった、と思いながら顔をさする。そして早く立ち上がらないと竜牙様を見失う、と焦って顔を上げるとそこに影。
「……竜牙様」
絶対私を置いてさっさと行ってしまうと思った、というか過去数回置いて行かれた記憶があるだけに私は目の前の人物と予想外な行動に私が戸惑う。
「何をしている。馬鹿が」
「……え?」
そうしてさらに差し出されている物に大混乱。手だ、竜牙様の麗しい御手だ。これは触れていいのか、掴んでいいのか。
差し出しかけてもまごまごしている私の手を、竜牙様の方から引ったくるように掴んで荒っぽく立たせる。放心している私を見て鼻を鳴らした竜牙様は踵を返してまた歩き出す。
(……今、初めて気遣ってくれた……?いやそれよりも待ってくれた。いやいやいやそれよりも触ったよ!?あの竜牙様に触れた!?)
大パニックを起こしている頭にも一つだけ分かったことがある。そう、今最高に幸せだということ。とそうやって頭を整理していると彼が振り返った。
「おい、行くぞ!」
「……はい、竜牙様!喜んで!」