そわそわした。胸が高鳴って顔あたりが熱くなって、どうにもこうにも苦しくなる。その原因というのがひとえに私の右手にさっきから触れようとしたり離れたりを繰り返す恋人の手だったりするわけだけれど。
「あー……その、暑いな!」
「……そう、だね」
朝練という名目で港に朝から集まった私と正宗が休憩を始めて早十分。何が入っているのか分からない大きな木箱に座って海を眺めてた穏やかな時間。
ふと、木箱に置いていた右手がくすぐったくなってちらりと目だけでそれを見ると、私の右手と正宗の左手がそれはもう接近していて、驚いた私はすぐに知らないふりをする。
(……恋人っぽい)
お互い意識し始めたせいで右手周辺は変に敏感になって、正宗の指が接近しただけで指先の空気が振動してくすぐったく感じる。しかしそのくすぐったさもしばらくすると無くなる。
触れようと近付けば躊躇う時間があって、しばらくしてそれが少し離れる。その繰り返し。
「…………」
「…………」
「……正宗」
「なっ!なんだ!?」
そういう事に疎そうな正宗はタイミングが掴めないのか緊張しているのか、それはそれはテンパっている。私がちらりと彼の方を見て名前を呼んだだけで、彼は肩をびくりと震わせてぎこちない動きでこちらを見た。
「焦点合ってない」
「う……悪かったな!分っかんねーんだよこういうの!」
予想通りに逆ギレした正宗の様子がおかしくて私は小さく笑う。その私を見て、彼は空いてる右手で鼻の頭をかく。そんな不器用な彼が、本当に好きなんだなと実感する。
「待ってるんだけど……な」
独り言みたいに呟くと、彼の呆気にとられた表情。少しわざとらし過ぎたかなと後から恥ずかしさが尾を引き始めたころ、私の右手に変化が起きた。ずっとむず痒いだけだった指と指の間に一本ずつ絡まる彼の指。
「へへっ」
しっかりと絡めら繋がれた指を見てから彼へと視線を流すと、にへらと頬が緩んだだらしない正宗の笑顔。
「えへへ」
その笑顔をみて、つい、釣られるように同じく頬が緩んだ。