私は日なたからだるそうな彼を軽く睨みつけた。睨まれた彼は室内に戻ろうとしないものの日陰から一行に動く気配がない。
「水地」
「……嫌だ」
ため息をひとつ。ずっと日の当らない場所を好んで外に出ようとしない水地を好きになってしまった私が悪いと言ってしまえばそうとも言える。しかしこれでも水地の体にカビが生えるに違いないと外まで引っ張ろうとしてなんとか屋外には出したものの、日陰から一歩も出ようとしない。
(確かに直射日光はつらいけどね……)
日なたにいる私にだって感じる、肌を焼くような直射日光と紫外線。確かに外に出るのは億劫だが、水地はそれでも今のうちに1年分くらい日光を浴びる必要があるくらいだ。
「ほら、日陰から出て」
「やだよ、暑いし面倒くさい」
ふぅ、と大きなため息をつく水地に私の眉間がぴきりと音を立てた気がする。最終手段として私は両手を彼に広げる。
「ほら、おいで!」
「…………」
「……私の事、好き?」
「好きだけど……」
だけど、の続きを口ごもる彼に私は辛抱強く待つ。何も言わずに彼だけを見て日陰から出るように両手を広げたまま。餌を目の前に罠を経過する猫のように小さく唸りながらこちらを見る水地。
「…………」
「好き、だけど……」
「…………」
私の無言の威圧に負けたらしい水地は、日なたの部分にちょっぴり手を出す。すぐ引っ込める。それを何回か繰り返してから、意を決して日向へ一歩踏み出す。
「やった水地が出っ!?」
一歩日なたに踏み出して、私の手を取るとぐいと日陰に引き込んだ。思ったより強い力に私はよろめいて引っ張られた彼の方に傾き、そのまま胸にダイブ。不満を呟こうと顔を上げれば、日陰の中で満足そうに小さく口端を上げる水地。
「……思ったんだけど」
「なに?」
「僕が日なたに出るんじゃなくて、が日陰に慣れればいいんだよ」
小さく上げた口端を、今度は決定的に深く笑む。私からはサァっと血の引く音を遠くに聞くと、見上げた水地から触れるだけのキスが落ちてくる。満足そうな顔のまま、腕の中に閉じ込めていた私を横抱きにすると、屋内に戻ろうと踵を返した。
「……僕のこと、好きでしょ?」