この人には敵わないと思う。
普通の人とはちょっと違う、本能的な求愛や恋愛に私はちょっと負けているような気がする。そんな人を好きになってしまった私が悪いと言ってしまえばその通りだけど。
「ナマエー…」
「んー…」
ネメシスの彼に与えられた部屋で私にじゃれつく彼は本当に本能的だ。帽子をとってるヨハネスは、ベッドの上で座っている私に正面から抱きついてぐりぐりと頬をすりつける。どうやら仕事続きでストレスたまってたらしい。普段真面目に仕事をする彼とは大違いの甘えっぷり。
「落ちつくー…」
頬に頬を擦りつけて、本当に犬猫そのものだ。いつものこととはいえされているこちらは相手が恋人でも結構照れる。けれども好きな弱み、自分もじゃれてる時間は幸せで仕方が無い。
(私も落ちつく…)
背中にまわしていた手に力を入れてぎゅっと抱きしめ返すと、ヨハネスもぎゅっと力を入れてきた。数秒そのまま力を入れていたが、ある時ふっと力を抜いてお互いに寄り掛かり合う。
「にゃぁー…」
ヨハネスが小さく鳴くと、近くにあった彼の頭がもぞもぞ動く。そして頬に湿った違和感。
「ちょっ、何してるの!」
彼はぺろぺろと私の頬を撫でる。ちょっと獣舌気味なのか、乾いた舌がざらざらくすぐったい。あとものすごく恥ずかしい。相手が猫的とはいえ。顔に血が集まって反射的に肩が上がる。
「…おいら流のキス」
「……恥ずかし…」
「ホントだ、ナマエ真っ赤」
「…言わないでよ…」
可愛いな、と満足そうに告げる彼に一本取られている気がしてとても悔しい。その悔しさのまま彼の真正面から接近する。
「んっ!?」
真正面から軽いキス、それから対抗するように彼の唇をぺろぺろ舐める。予想外の私の行動にヨハネスは目を見開いたまま停止する。
「私流のキス、どうだった?」
「…………」
まだ多分私の顔は赤い。でも悔しかったのでそう言って意地悪く笑って見せる。不意打ちだったせいか、珍しくヨハネスが照れるしぐさを見せて息を飲んだ。そして照れたまま真顔。
「…今のおいらのこと挑発してるよな」
そう言って私の襟元を掴んで引き寄せる。ざらりと乾いた舌が私の頬をまた撫でた。そうして今までで一番不敵に笑ったヨハネスに、私はやりすぎた、と後悔することになる。
「もう、どうなっても知らないからな」