「よし、頑張ったな」
そう言って彼は私の頭を撫でた。頭を撫でられるのは嫌いな訳じゃない。寧ろほっとするから大好きで、いつだってウェルカム。ついでそう言って私の頭を撫でる彼も大好きな訳だが本人はそれを知らない。
「ダーシァン、用があるんだ。今いいか?」
「チーユン……あぁ構わない。、行ってくるからちゃんと鍛錬進めておけ。いいな?」
「ん、いってらっしゃい」
チーユンに呼ばれて、私の頭を満足そうに撫でていたダーシァンが背を向け鍛錬部屋を出る。
はぁ、と大きなため息を零して窓横の壁に寄りかかる。
「なーにでっかいため息ついちゃってんの」
「うわっ!……ってなんだ、ただのチャウシンか……」
「ただのってなんだよ!」
窓の柵にいつのまにやら座っていた彼がつっこんだ不名誉な部分は放っておいてため息をもう一つ。そんなネガティブ極まっている私をみてチャウシンは眉間に皺を寄せる。
「なんだよ陰気くさい」
「……ダーシァンって、なんていうか、大人だよねぇ」
「……は?」
「私なんか子供だし、釣り合わないよねぇ」
「……はぁ?」
眉間に皺を寄せながら、チャウシンが二回怪訝そうな顔をした。
ダーシァンはベイ林寺の筆頭で、意志もしっかりしていて大人。私の鍛錬に付き合ってはくれるが頭を撫でるところを見る限り完全に子供扱い。恋をしてるにしても相手が遠すぎる。
「いやね?私も大人ぶってダーシァンにつりあおうと努力はしてるのよ。でもいざ本人目の前にするとなんかもう、あぁ自分子供だなぁって思って」
「そうか?」
「そうなの! 一生懸命背伸びしてんの!!」
期待はしてなかったが存外に素っ気ない返事だったので私は段々不機嫌になって、八つ当たり気味に彼を睨む。
「ふーん。俺からしてみりゃ、お前がちょっと子供だから逆につりあってるように見えるけどなぁ」
「は? どういうこと?」
私が呆気に取られるとチャウシンは意地の悪い笑みを浮かべて私の頭を乱暴に撫でる。
「子供だからって悲観しないで追っかけてみろってこと。案外子供だから、脈があることだってあるんだぜ?」
「だからそれってどういう……」
「チャウシン!!」
不服そうに撫でられつつチャウシンを見上げていると、知った声が怒ってるニュアンスで彼の名を呼ぶ声の方を見ると、ちょっと険しい顔のダーシァンがずかずかこちらに歩いてきて、チャウシンから私を引ったくるように引き剥がして抱え込んだ。
「を口説くなと何回釘をさせば……!!」
「あーはいはい悪かったって」
「は今発展途中なんだぞ! お前がむやみに手をだして邪魔をするのは……」
そのままの勢いでダーシァンがチャウシンに説教を始める。面倒くさそうなチャウシンはダーシァンに見えないように隠れて私にウィンクした。
(な、お前実はかなり大事にされてるだろ?)
そう言っているようで、私は少し上機嫌になって小さく頷いた。私の返事サインを確認すると、彼は適当に言い訳しながら窓から逃げる。
「こら、チャウシン!! ……全くあいつは……」
窓からチャウシンに完全に逃げられたことを察したダーシァンはぶつぶつ呟いていたが、すぐさま私の方を向いて笑顔をくれた。
「あいつは放っておいて、鍛錬を続けるか……ん? どうした? やけに機嫌よさそうだな」
「えへへー、私、ダーシァンに大事にされてるんだなって思ってねー」
そう言ってみると、ダーシァンは一瞬驚愕の表情を見せたあとに狼狽する。私には、それだけで今は充分だ。
「……い、いいから続けるぞ!」
「はーい!」