正宗はバカです。バカはバカでも筋金入りの大バカ者です。私はこんなにこんなに正宗が好きだっていうのに、こんなにカミングアウトしているのに気付かないんです。
「キングー!!勝負だ!この間のリベンジだ!」
「おー、また負けに来るたぁ正宗も変わり者だな!」
「だっ、誰が負けるって!?寝言は寝て言えよ!バカ!」
「はぁー!?バカって言う方がバカなんだよバカ!!」
正宗はキングと睨み合って互いにバカバカ言い出した。その間私は待ちぼうけ。他愛ない会話なら入れるものの、この単純な喧嘩には私の入る隙間は存在しなくてぼんやり二人を眺めているばかり。
「あーあ、またやってる」
「二人とも懲りないな……」
後ろから様子を見に来たトビーとゼオが苦笑していたので、私もつられて苦笑する。
「そこまで言われたら黙ってられねぇ!!勝負だ!」
「臨むところだ!!」
「はいストップストーップ」
最早臨戦態勢だった二人の間に割り込んだのはトビーだった。にっこりと笑顔で二人を制止すると、ちらっと私の方を向いてウインクで合図。私に時間をくれるサイン。
「なんだよ!邪魔すんなよトビー!!」
「そうだぜ!決着が……」
「それはいつもやってるでしょ。が正宗と出掛けたいんだって」
「そうだよ、正宗!待ってたんだから。出掛けようよ!」
折角トビーがお膳立てしてくれたのだ、機会は無駄に出来ない。私はそう言って正宗に迫ってみた。キングはそんな私の様子で察したのかにやにやと笑い出したが気にとめている場合じゃなかった。
「……そーゆーことかよ。ったく正宗も隅に置けねーな!」
キングがにやにやするのに対して正宗が訳分からないといった顔で首を傾げた。そしてまっすぐ私を見て言う。
「なんでと買い物なんだ?それこそいつでも出来んじゃねーか」
ピシリ、と空気にヒビが入る。キングとゼオが信じられないという表情をし、トビーはひきつった笑顔。私はというと、じわじわと悲しみが押し寄せてきて胸の奧がじんわりと痛い。だんだんじわじわした痛みが胸の方までせり上がってきて、私はついに、泣き出した。
「う、うわああん!!」
「!?」
「あーあ……」
「どんだけだよ……」
「正宗、サイテー」
「は、はぁ!?」
あのキングですら意味が分かったというのに正宗は本当にどこまで、どこまでバカなんだ。
「わああん!トビー!正宗がー!バカ正宗がー!」
泣きついた私の頭を撫でて、トビーは優しい笑顔。
「そうだね、可哀想だ。正宗がバカなばっかりに……」
「いや訳わかんねぇよ!?」
「正宗の思考回路のが訳わかんないっての」
ゼオも呆れてそれ以上物が言えない。そうして泣いてる私と慌てた正宗の間に、トビーとゼオとキングの深い深いため息が響き渡った。