「アイツの好物?」
「おう。いつも一緒にいるお前なら少しくらいは知って」
「知らん」
俺が言い捨てると日向は目を丸くして「嘘だぁ!」と叫んだ。
耳の奥を激しく刺激されたから、俺は右手人差し指で右耳を封鎖して素知らぬ顔をする。知らんものは知らんのだ。
「お前らデキてる疑惑浮上するくらい一緒にいるじゃん!」
「アイツがついてくるだけだ」
「の片思い!?つか何だよそれモテてる奴の余裕!?」
日向は大袈裟に頭を抱えこんだ。その後ろの音無の野郎が日向を宥める。その光景を横目に俺はまたごろりと芝生の上に寝転んだ。
「つか、そんな回りくどいことしないで本人に直接聞けばいいだろ」
宥めていた音無が日向を訝しげな目で見ながらため息をつく。そう、わざわざ俺に聞く意味が分からん。
「アイツならどうせ裏庭だ。そっちに行け」
そう告げると日向と音無は揃ってこちらを見て呆気に取られていた。あまりに長い沈黙が訪れたので、苛立った俺は睨みをきかせる。
「何なんだ貴様ら!!」
俺が一喝すると弾かれるように反応して、奴らは目を見合わせる。そして恐る恐るこちらをまた向いた。
「ついてくるだけ、って割にはよく把握してんなぁ……お前」
音無は普通に唖然としているだけだが、日向は呆けた表情から一転、にやにやと嫌らしい笑みでこちらを指さしてきた。苛立ちが頂点に達した俺は隣に置いてあるハルバードを掴んで振り回す。
「っ知るか!さっさと行け!!」
紙一重で俺のハルバードを交わした日向はからかうような声色と足取りで音無を引っ張って走っていく。
「野田ー!素直じゃないのは良くないぞー!!」
さらに苛立ちに拍車が掛かったが、追いかける気力なぞ当に失くした俺はハルバードを柔らかい芝生の地面に突き立てて再度寝転んだ。空を見上げると、日向の声が耳の奥でエコーした。
『の片思いかよ!?』
俺はその声に弾かれるように起き上がった。
穏やかな風と葉擦れの音でふと我に返ると、急に調子が狂った気がして右手で顔を押さえ込む。……懐かれているとは思っていたが、まさか。
「くそっ……」
寝る気が全く失せてしまい、俺は起き上がってハルバードを肩に担いで適当に歩き出した。