――ノックする音が聞こえる。
私は目をこすりながら扉まで体を引きずるように歩き、扉を開けると、そこには驚愕に目を見開いた日向がいた。
「……ああ、日向おはよう」
「お、ま、……!?」
「つか、朝早くから何?」
「え、あぁ野田を呼びに……」
私は訝しげに眉間に皺を寄せた。なぜ野田を呼びに来るんだ。しかし日向に言い間違えたような仕草はなく、数分私は黙り込んで考えた。あ、ここ野田の部屋か。
「あーそっか、分かった」
「何が分かったんだか俺には全く分からんが、あの馬鹿をとりあえず起こして」
「はいはい」
私は野田が寝ているベッドに腰を下ろして肩を叩いた。身じろぎの後、頭をかいた野田が起き上がる。
「ん、おはよー野田。日向がなんか用だって」
「…………」
「おい、聞いてる?寝ぼけてるの?起きろ、こら!!」
「……!!何故、貴様が俺の部屋にいる!?」
「寝ぼけてるでしょ。とりあえず日向呼んでるから行け」
半寝の野田を立たせて扉の方向に突き出した。押されてよろけた野田は頭にクエスチョンマークを浮かべながら、それはまた微妙な顔で日向と向き合った。
「……何の用だ」
「えーと、用が二つに今増えたんだけどいいか?」
「いいから早く言え」
寝起きのせいか、私のせいか知らんが、野田は苛立ちを見せる。日向がため息混じりに苦笑すると、手渡される一枚の紙。
「ゆりっぺから明日のオペレーションの詳細だ。読んどけよ」
「分かっている」
「あと一つの用は……」
日向はにやりと笑うと、まるで近所の噂好きなおばちゃんのように嬉しそうに言った。
「お前らいつのまにデキた?」
「死ね」
言うまでもない野田の即答。なんだろう野田とデキてるかと聞かれて嫌ではないのに日向の聞き方がやたらとカンに触ったので、私は彼の室内から置いてあった空き缶を日向に思い切りブン投げとおく。
「あだぁっ!!」
眉間にクリーンヒットして役目を果たしたそれを、野田が拾い、私は廊下に伸びた日向を放置して扉を閉めた。
「野田はさぁ」
閉めた扉に寄りかかり声をかけると、野田はちらりとこちらを振り返った。
「私とデキてるーって思われるのは、嫌?」
「なっ……!!」
予想通り顔を真っ赤にした野田がこちらを思い切り振り返った。一度振り返り、戸惑ったように視線を左下に落とす。それから振り切るように首を振って私に背を向けた。
「下らんこと考えているなら、さっさと部屋に帰れ」
「えー!」
私は文句を言いながら彼の後をついていき、借りたベッドにごろりと再度転がった。
「……おい、部屋に帰れ」
「下らないこと考えてないんだからいてもいいでしょ」
「図々しいやつだな」
ごろりと転がって彼に背を向けながらうっすら瞼を閉じる。しばらくうとうとしていると、物音の後に、彼に向けていた背中に暖かさを感じて首だけで振り返る。
Tシャツの背中が見えて、野田が私に寄りかかっていることがわかった。
「なんであっちのベッドに座らないの?」
「物があって座れんからな。俺の部屋だ、どこに座ろうと俺の勝手だ」
「……さいで」
私は背中の微かな重みと温かみを感じながら、現実と夢を往復する。片や私に寄りかかりながら野田はハルバードの手入れにいそしむ。
豪雨の次の日、穏やかな休日を私はめいっぱいエンジョイすることにした。