※最終回のねつ造設定
※一部ネタバレアリ
空は青い。そんな爽やかな青い空の下の校庭は全く爽やかな状況ではなく、私は心の奥で文句垂れた。ため息をつく暇もなく私たちを取り囲む黒い影の眉間に一発お見舞いすると、当たった影は消えていくもののすぐさま次の影、また次の影と終わりを知らない。
私は椎名と背中を合わせて周りを見回した。
「そろそろ飽きたね」
「しかし全く減っていない」
「…だよね!」
苦笑する私たちは駆け出して、それでも影を消し続ける。
「おい、調子乗ってこけんじゃねぇぞ!!」
「まーコケても大山君がなんとかしてくれます」
「僕任せ!?嬉しいけど釈然としないのはなんだろう…」
笑いながら銃をぶっ放したり刃物振り回す私たちは、まるで夏場に水鉄砲片手に戦争ごっこをするそれに似ていた。笑いながら影と影の間を駆け抜ける私たちは、お互い普段と変わらない様子で声を掛け合う。
ぶおん、という風を切る鈍い音が真後ろからしたので私はしゃがみこんだ。大きな刃物が頭上すれすれをとんでもない速さで通過すると、頭のてっぺんにある行き場のない数本の髪の毛が犠牲にすぱりと地面に落ちた。
「おいこら野田ァ!周り見てから振り回せ!!」
ふんと鼻を鳴らした野田に苛立ちを覚えた私は、奴の足元に一発鉛玉を打ち込む。のわっというアホなかけ声が耳に届いた。
「貴様何をする!!」
「こっちのセリフだあほ!私の頭を輪切りにする気か!!」
お互いを見ずに影と対峙しながら私と野田は喧嘩を始める。ギャーギャー怒声を交わす私たちは、きっと影さえ居なければいつも通りなんだろう。
「こら、こんな所で喧嘩をするんじゃない」
「yeah!」
「えー、でも野田が…!」
松下五段とTKに諫められた私が反論しようと振り返ると、何の前触れもなくそれは起きた。
今まで対峙していた影が、音を立てて一気に崩れた。後片も残さずに砂のように散って消えるその様子に私たちは呆然とせざるを得なかった。
「………え?」
「……終わった、のか?」
皆がそれぞれ呆然としながら、己が武器の構えをといて手をおろす。しかし状況が掴めずに一息つくにつけない私達の耳に、懐かしい声が届いた。
「終わったんですよ」
全員がそちらを見ると、あげるべき物がないのに両目の間に指を添える懐かしい…というには早いが、そういう部類の人物。
「「「高松!」」」
「てめぇ、NPCになったんじゃなかったのかよ!」
「今記憶…いえ、魂ですか。それが戻ったんですよ」
皆で高松に駆け寄ると一気に緊張感が解け、各々武器をしまって高松の背中を叩いた。
「びっくりしたよ、でも良かったぁ…!」
「戻ってこれたなら何よりだ」
「HOOO!It's mirecle!!」
私は騒がしい彼らを二歩遠巻きに眺める。本日は晴天なり、青い空はどこまでも広がって私達の勝利を祝っているかのよう。
「ゆりっぺと、やつらだな」
同じく輪に加わらなかった野田が私の隣に歩を進める。つぶやく横顔はどこか自分のことのように誇らしげだった。
「うん。終わったね」
校庭を見回した。まるで最初から何もなかったかのように校庭の砂がきらりと光った。私たちは高松の帰還をひとしきり喜ぶと、自然と円になって皆の顔をお互いみていた。
「うむ、あとやることは一つ」
「……僕ら周りの皆とちょっと遅れてるもんね」
誰も何も内容を掘り下げなかったが、何のことだかは分かり切っていた。
沈黙、誰も何も喋らない。その静寂の中に、私はたった一言だけを零す。
「…超楽しかった!」
私がそう告げると、数秒のタイムラグ後に、皆の爆笑が何もない校庭に高らかに響き渡った。
「ぶっはは!確かに!!」
「…真のラスボスは拝めなかったがな」
「でも僕ら緊張感ある反面確かに楽しんでたよね!」
「…悪くない時間だった」
笑顔が交わされる。皆が皆の顔を見た。充実した顔つき。
珍しく野田が動いて、己のハルバードを円の中心に向ける。私はそれにのっかるようにハルバードの刃に、自分の使ってたライフルを向ける。大山の望遠ライフル、椎名の小太刀、藤巻の長ドス…どんどんと仲間の武器が円の中心に集まって、武器の円陣が出来上がる。
「最高の部隊だった」
「楽しかったな」
皆の視線が自然と私に集まっているのを感じ、私は皆を見回した。満足そうに、人によっては不敵に笑っていたり。個性的なメンバーが集まっていたが、確かにSSSは楽しかった。喧嘩も失敗も耐えなかったが、それでも皆が笑っていたから。
私たちの悲惨な過去は変わることはなく、かつ仇をなした所で意味はない。私たちは『今』満ち足りているのだ。
「私たちは最高の仲間だ!」
円陣の武器が全部上に浮き上がって、青い空を背景に私たちの武器はきらりと光った。
「また、私たちは生まれ変わっても仲間である!」
私の目はまっすぐ空へ。皆の顔なんて見なくてもわかる。
「記憶が無くなっても、私たちは巡り会い、また出会う!」
涙が出そうになるのをこらえたら、代わりに声が震えたが、私は叫んだ。
「皆、また会おう!!」
目尻からぽろりと雫はこぼれ落ちたが、私の顔は笑っている。武器をかかげた藤巻が笑った。
「泣いてんじゃねぇよ!」
松下五段が藤巻を諭した。
「女子はこういう時には泣いてしまうものだ、許してやれ」
高松が眉間に人差し指をやる。
「まぁ雰囲気に飲まれればそうなりますよ」
大山も涙をこらえて言った。
「さんも可愛い所あったんだね!」
椎名が小さく笑った。
「それは失言だ、大山」
野田が鼻を鳴らした。
「フン、最初からしとやかにしていれはいいだろう」
「ええい!最後に余計なこと言うな!!」
私がつっこみを入れると全員がまた笑った。太陽の光が武器に反射してキラキラしていると――TKが言った。
「See you,next life!!」
その言葉に全員が「Ok!!」と答えて一斉に武器を肩に振り返った。自然と目を閉じて、全員が違う方向に数歩歩くと、校庭から足音が一気に消え去った。
私たちは必ず出会う。
運命も覆して、絶対に。
何故ならTKは最後に「またね」と言ったからだ。さよならではない、また会うことを誓った言葉。だから私たちは別れた。再会する未来へ、歩き出した。