「日向!そっち行った!!」
「よっしゃ!」

 夕日がほぼ沈み、暗みを帯びた教室の窓から校庭を見た。

「……はぁー……」

 放課後になってからかなりの時間、SSSの男子メンバーは人数を集めて野球に勤しんでいる。陽が落ちて、電灯が灯している時間になって彼らの野球はやっと解散するらしく、ゾロゾロと解散していく姿が見えた。

「遊びなのによーやるわ」

 そういって私は手元のエレキギターの弦を一本弾いた。日向が見たいが故に、わざわざ寮でしているギターのチューニングと練習を教室でやっていたが、彼らが解散するなら意味もなさない。

「帰ろ」

 突然、派手な音がして教室の扉が開く。あぁなるほど扉が閉まってたから教室が微妙に暑かったのかと納得しつつ、扉の外側からそれを開いた人物へ視線を移した。

「……日向?」

 息切れしてぐったりしている日向が扉の取手に手をかけたまま項垂れていた。それから、声をかけた事で気がついたのか私を見る。

「あー、やっぱか。まだ残ってたのか」
「うん、まー練習に」

 そういってケースに入っているギターを持ち上げると、日向は小さくなるほど、と言った。

「日向はどうしたん?そんな走って……」

 私の言葉に一瞬表情をキョトンとさせた彼は苦笑した。

「何って、お前迎えに来たの」
「……え、私?」

 予想外の言葉に今度は私が呆気にとられる。そんな私を見て、日向にかりと笑う。

「音無がさ、この教室にお前が残ってたのが見えたって教えてくれてよ」
「……そーいや目あったかも」
「お前が一人でいるなら迎えに行くチャンスだと思って」
「……チャンス?」

 えーと、とこぼしてから数回頭を掻いて考えているが、日向は答えをくれずもったいぶっている。分からんお手上げ、と私が両手を上げて首を竦めると、彼は笑って指を三本立てた。

「1、お前を寮に送りに来た」
「あぁ」
「2、お前に告りに来た」
「……は!?」
「3、お前をイジりに来た」
「……明らかに2が浮いてる……」
「さぁどーれだ!!」
「3」

 迷う暇なく私は冷めた目で即答すると、日向は早すぎると苦笑する。

「いじらしさを覚えようぜ!ここで照れながら2って言ったら告る気なくても男は告る!!」
「そうかそうか、で?」

 そんなことができたらとっくの昔に彼氏を作っとるわ!と内心で愚痴りながら日向の回答を促すとまたため息をつかれた。

「いいよいいよ、お前のそんなドライな所嫌いじゃないぜ……」
「そいつはどうも」
「因みに答えは知りたいか?」
「そりゃあ……気になるし」

 にこにこ笑みながら目の前の距離まで近づいて、日向は私の目と鼻の先に三本指を突きだしてきた。やっぱり3じゃないか。

「ハズレ!答えは全部」
「えっ、全……」

 私の復唱は、眼前まで迫った日向の短いキスで中断された。もちろんそれで私は停止するし、思考がこんがらがって何回も瞬きをした。

「えーっと、全部?」
「そう。全部」
「……もしや2も?」
「今のが2のつもり」

 ヤバい、不意打ちにしては衝撃がでかすぎて、状況把握についていけない。顔に血が集まる感覚。そんな私を見て日向は満足そうに笑う。

「返事はいらねーよ。今はその顔で充分だしな!」

 すると彼は腰横に放置してあった私の右手を恋人繋ぎに絡めとって歩き出した。

「送ってくぜ、帰ろう」
「あ、あぁ……うん……」

 歯切れの悪い私をみて満足したのか、日向は機嫌上々に私を引いての前を歩いた。

青春到来!

(それは何の前触れもなく突然いきなりやってきた!)