私は目を点にした。目の前には赤バンダナを目につけた金髪がめちゃくちゃ近い距離で此方を見ていたからだ。これで驚かない人間がいたら驚く。

「Oh!Good morning!!」
「ぐ、ぐっも……」

 唖然として私に対して金髪の彼はまるで何もなかったかのように爽やかな朝の挨拶を繰り広げてきたので、私はキャパシティーオーバーしている脳みそで必死に考えて同じ返事を返した。
 私の返事がお気に召したらしいかれはにこりと人懐っこく笑みを浮かべると、上体を起こした私の手を引っ張って立たせる。

「ど、ども……」

 なんだ、良い人じゃないか。どうしてこんな深夜の学校の屋上にいるのかとか、アンタ誰だと言う質問にひとまず置いておける程度には私は落ちついていた。そう、彼を見る目が顔から下にちょっとずらすまでは。
 彼の胸元に銃黒い銃口が見えて私は停止する。彼は肩から斜めがけにひっさげている銃をがちゃがちゃ揺らしながら相変わらず笑顔だ。

「Hey!Let's dancing!!」

 私は言葉ではなく、笑顔だけでそれに答えると速攻背を向けて走り出した。いくらなんでも怪しすぎる。
 お月様が一番高い深夜の屋上、何故か斜め掛けに引っ提げている種類の分からない銃、そして目を隠す真っ赤なバンダナに、とどめ刺しには踊ろう!だなんて言動と行動と状況が余りにも矛盾し過ぎではないだろうか。否、矛盾している!

「Wait!!Wait you!!」
「ぎゃー!ついて来たー!!」

 がっちゃがっちゃ、彼が走る度に揺れる銃の音を聞きながら私は本気で走るスピードを速めてもはや全力疾走。今がどういう状況なのかよく分からないが、今私は不審者に追いかけられていることだけは確かだ!私は屋上の扉を思い切り開けて中に駆け込んだ。

「Please Stop!!」
「無理無理無理!!」
「Why!?一緒に戦おう!」
「日本語!?」

 静まり返った校内を、バタバタと足音たてて叫びながら私達は追いかけっこを続ける。
 後ろからにょろにょろと変な動きをしながらついて来る不審者は英語と日本語を織り交ぜながら懲りずについて来る。バイリンガルならなぜ最初から日本語を話さなかったのか非常に気になるが、わざわざ体内酸素を吐き出すような自虐的な真似はしたくないので知らない校舎をこれでもかと走り回った。

「ゲッ!?」

 使われていない昇降口の様なところに着いた。しかし扉は鎖で閉めきられ、私は四方を冷たいコンクリさんに囲まれて観念し振り返り、粘ってついてきた不審者と対峙する。

「なによ!」
「What? さっきも言った。一緒に戦おう!」
「なにと!?」
「The God in this world.」

 神様とな?この人は頭がおかしいのか……という疑問が頭を過ぎたが、頭がおかしい事は今までで十二分証明出来ているので突っ込まないことにして。

「言っとくけどね!自分の人相を隠してるような不審者にホイホイついていくような軽い女じゃないのよ!マジで!!」
「人相?……隠さなければ?」
「……話くらいは聞く気になる」

 その言葉を聞いて不審者は銃を床におき、赤いバンダナを外した。

「ok?」
「………………」

 外した不審者は昇降口のガラスから神秘の月の光で照らされて、ベルサイユ顔負けのイケメンが私の前に立っていた。整った顔と暗闇の中でも映える綺麗な青い瞳。私の中の天使が私のハートに矢を突き刺した。もちろん矢羽はハート型!

「これで一緒に……」
「ドストライクです!戦います!喜んで!!」

 コロッとひっくり返された。己から近付いて両手をがっしり掴み、キラキラと輝く瞳で彼を見上げれば一瞬気圧されたようにたじってから小さく微笑んだ。

「よかった」

第一印象で決めました

(不審者様から王子様への、劇的昇格!)