お昼休みのチャイムが耳に届いた。もちろんSSSのメンバーである私はそんなチャイムに急かされることもなし、のんびりと校庭の片隅にある芝生の上で昼寝を決め込んでいた。
爽やかな風が前髪と芝生を揺らし、日差しが降り注ぐも木陰にいる私はそんなもの安眠を遮る要素にはならない。私は久しぶりに訪れるこのどーでもいい時間を一秒も無駄にすることなくエンジョイしていた。
うとうと意識の半分が夢へと片足つっこんでいる最中、耳に届くのは芝生を踏む音。誰かが近くを歩いていることは認識したが、何せ私は半分夢の中。誰だろうがわざわざ安眠中の私を起こしたりするような鬼畜な人間はいないと信じていた。だから、そのまま寝ることにした。
「……おい」
ぼんやりと体がふわふわしてきて、どうにも本当に熟睡体制に入ったらしい。声をかけられたらしいが全然頭が追いつかない。ついでに目も開かなかったので、悪いが声をかけた人には諦めてもらおう。眠すぎて色々感覚がシャットアウトしてきた。
「おい!」
「本当ごめん、眠すぎる。諦めてまた今度にして。お願い」
「おい!起きろ!今すぐにだ!!」
「何!?っと……っと……と」
思い切り立ちあがって、思いの外視界と頭が歪んでぐらりとなったのでついふらついた。頭元の樹の幹に頭をぶつけるぎりぎりで掴まれて、止まる。視界の右半分がモザイクかかったような木の幹、視界の左半分にぼんやりとうつる紫色の人間。
ちょっと眉間に皺をよせて、私を引き寄せた人を眼前まで顔を近づけてさらに目を細める。
「……もしかして、君は野田?」
「ち、ち、近いぞ貴様……!」
「だって眼鏡が消えてて見えないんだもん。落ちてない?」
野田だと分かった私が離れると、私を掴んでいた野田も手を離す。目を擦って踏みつけないように落ちたと思われる私の眼鏡を探そうとすると、ずいと予想外な眼鏡が差し出された。
「すまなかった、これは返す」
「いつの間に奪ったのよ……」
私が不満げに眼鏡を受け取ると、やっと鮮明になった視界では野田も不満そうにしている。何で野田もそんな顔をしているんだ。そう思っていたらそれが通じたのか野田が校舎の方に目をやりながら呟きを零した。
「高松の眼鏡がだてだった。俺は奴に騙されていた」
「……は?」
素っ頓狂な声で聞き返すが、そんな私の様子を知ってか知らずか野田は続ける。
「だから眼鏡をかけてる奴がだてばかりなのかと……」
「私で試したってこと?」
「……あぁ」
しょげた様子で俯く野田が、私にはどうにも面白くてつい腹を抱えて笑った。
「ぶっははははは!く、く、くだらなっ……!!」
「……貴様笑いすぎだ」
「だ、だって……!」
「だが貴様がだてで無いことが分かればいい」
「……は?あ、ちょっ……!」
とっさに眼鏡を奪われて、私は取り返そうとぼやけた視界で野田に手を伸ばす。その手は彼のもう片方の手で捕まれぐいと引き寄せられた。気がつくと、私の鼻の先に野田の顔のアップがあって、私は目を見開かざるを得なかった。