「ねぇさん、藤巻君どこにいるのかしら?」

 ゆりが廊下を歩いていると、ふと私にお声がかかる。私は休み時間で賑わう人の合間を縫っていた歩いていた早足を止めて、彼女を振り返る。

「藤巻なら屋上」
「そう。あ、でも野田君がいたからいいわ、ありがとう」
「うん」

 通りかかった野田に声をかけながら遠ざかるゆりの背中を見送る。すると今度は左肩を叩かれて振り返ると、黄色のツインテール。

「遊佐さん」
「藤巻さんの居場所のことでお伺いしたいんですが」
「うん、何?」
「……いやいや、なんでそれをに聞くんだ?」

 遊佐さんとの会話に入ってきたのは音無くんだった。段々と休み時間の終わりが近づいて人が減る廊下の隅で、私と遊佐さんは同時に首を傾げる。

「え、なんでって……何が?」
「……ん?なんで俺が聞き返されてるんだ……?」
「藤巻さんのことはさんと相場が決まっていますが……」
「いやいやなんの相場だよ!」

 音無くんが苦い表情で遊佐さんを見、私を見た。その後には私と遊佐さんが顔を見合わせ、二人で見つめ合いながらしばらくの沈黙。数秒して、思い付いたのか遊佐さんが拳で手の平を叩いた。

「音無さんは大前提をご存知なかったんですね。さんは藤巻さんのストーカーなんです」
「へー、そうなのかぁ……って、ストーカー!?」
「うん、藤巻のこと愛しちゃってどうしようもないの!」

 私は満面の笑みで両頬を押さえてきゃっ、と身体をくねらせた。音無くんの顔がみるみる引きつっていくがいい加減この反応にも慣れたもんだ。

「なので藤巻さんに関してはさんに聞けば、行動範囲から生活習慣まで把握しているので大概分かります」

 とてもお役立ちです、と遊佐さんが頷いたので私もにっこりと音無くんに笑顔を返した。

「もうすぐ藤巻こっちくるよ」
「さらに発信機も仕込んであるので現在地はバッチリです」
「あぁ……そう……」

 げんなりとした音無くんの顔を面白がりつつ、薄くなった人壁の向こうに愛しい藤巻を見つけて、私は暖かい気持ちになりつつ親鳥を追いかける雛の気持ちで人混みをすりぬけて愛しの彼に向かう。

「おーい藤巻ぃ!」
「げっ、!」
「ああ待って藤巻ー!」

 彼が苦い顔で踵を返すのを見て私は慌ててそれを追いかけた。

「藤巻の奴も大変なんだなぁ」
「ですが、まんざらでもないようです」
「なんで……って、うわっ!どっからだしたんだその望遠鏡!」
「藤巻さんも、さんのこと気になるようですね」

 背中でそんな会話をされているとはつゆ知らず、私の巧みな人ぬけ技ですぐさま藤巻に追いついた私は後ろから思い切り抱きついた。

「ぎゃっ!うわ、てめっ!離れろ!!離れろ!!」
「だが断る!」

 私を拒絶する言葉を発して身をよじる彼だが、それが言葉だけのはよく知ってるから回した腕に力を込めた。

私はそれを愛と呼ぶ

(だって藤巻の耳真っ赤!)