※主人公が特殊設定
「思いたったら吉日っと……」
私は男子寮のすぐ横に生えている木の上だった。月が綺麗な夜、私は生きる糧を求めて耐えきれず、男子寮に来ていた。
SSSに入ってかなりたったが、私は皆に言っていないことがあった。それは生前私が『吸血鬼』だったこと。そりゃあ吸血鬼にだって死や寿命があるのだから死にますよ、ええ死んでしまいましたとも。
しかしながら、様子見で大人しくしていたが流石にそろそろ渇望するころ。私は耐えかねてついに行動に移したのだ。
(別に誰でもいいっちゃいいけど、NPCでもイケメンがいいなぁ…)
通常選り好みしないものだが、私も若い。出来れば見た目重視で相手を選びたいもんだ。
(ええいギャンブル!!この部屋にきーめた!)
意を決した私は適当に窓を選び、木の幹を器用に歩いて空いている窓から音をたてずに中へ安易に侵入する。さて誰かな、とベッドを覗き込めば窓からの月明かりに照らされてキラキラ光る金髪。
「TKか…ラッキー!」
小声でガッツポーズ。イケメンであることには違いない、変人だけど。
ここに来て最初にしてはシチュエーション完璧だ。おまけに夏場のせいでタンクトップにジャージのラフ姿のTKの首は、綺麗に白い首ががら空き。
「ふふ、ツイてる。それじゃ、いただきまー…っ!?」
彼に近づいて首もとに指を添えると、その手首が捕まれてぐるんと視界が一回転。気がついた時には十字固めにされ、ぎりぎりと首が締まる音。
「ぐえっ、起きてた、のか!?ギブギブギブ…!!」
「Oh...I'm winner...!!」
「ね、寝ぼけてん……ぎえっ、ギブ!ギブだって!!」
私のロープを求める床を叩く音が静かに夏の夜に木霊した。
しばらくして解放された私は、次こそはと意気込んで再度ベッドに腰を掛けた。
「今度は逆手をとらせない!一気に行く…!!」
速攻TKの首にかぶりついた私は、違和感に首を傾げた。いつもなら力を入れなくても犬歯がさくりと皮膚に突き立つのにそれがない。もしや私はここにきた時点で吸血鬼じゃ無くなってる…のか?と思っていると、耳元にこそばゆい風がふわりと通り過ぎた。
「……?」
(げっ、起きた!!)
「Is it hard neck kiss...?」
見当違いなことを見当違いな英語で表現する彼は本当に英語出来ないんだと分かった。硬直する私に、寝ぼけているらしいTKはどうやら夢だと思ったのか私の首に腕を回してきた。
「ちょっ、まて……!!」
「」
二回目の名前呼びに不覚にも心臓が跳ねて止まっていると、TKの顔が目の前いっぱいに広がっていた。…あれ、これってキスってやつ?しかも私の首に腕回したTKが寝てる状態からキスしてる構図ってこれ普通男女逆じゃね?
「ご馳走様……好き、だ、よ」
うとつきながら離れたTKが悪戯っぽく口端を舐めたのと、いつもはあまり使わない日本語。それに私の頭は完全に沸騰してTKの腕から素早く脱出、飛び退いて窓から飛び出て暗闇の中逃げるように男子寮を離れる。
(そういえば、飛び退いた時に何か言われたような…、なんだったっけ?)
記憶の糸を、男子寮を飛び出した今落ち着いて辿った。
びっくりした、心臓が爆発した、それから、慌てて腕から逃げ出して、飛び退いた時に――
『――また来るの、窓開けて待ってる』