ギクシャクしていた。誰が、何がと言われると、それはもちろん私なワケで。何故かと聞かれると私の向かいにTKがいるからなワケで。さらに言わせて貰うと彼が「ドラキュラ」なんて言ったからなワケで。……英語でバンパイアじゃないのかTK語の場合は!なんて現実逃避も虚しく、彼は私が聞こえなかったと判断したんだろう。キョトンとした顔で言い聞かせるように先ほどの言葉を復唱した。
「 is ドラキュラ?」
「え、英語の文法を間違っているよTKくん」
「誤魔化さない」
「……ハイ」
日本語でピシャリと言われたので私は両手は膝の上において居住まいを正した。目の前の昼食であるカレーは冷めかけていて、でもそんなこと言えない雰囲気に私はうなだれた。
「」
「はいそうです私生前ドラキュラでしたバンパイアでした吸血鬼だったんです」
私とTKの雰囲気に何事かと思った野次馬は、私のセリフを聞くとなんだ冗談かと蜘蛛の子のようにわらわら散っていく。
「Oh...It's suprise...」
そう呟く彼は本当に驚愕で唖然としていて、正直に白状したのでさっきのギクシャクした空気は泡と消えたので私は大きく息を吐いた。
「まぁそういうこと」
「I see.」
いくら寝ぼけてたり寝起きだったといえどTKは私の奇行をしっかり覚えていて、一夜あけた今日さっき捕まって連行された私は観念していた。まぁ吸血鬼でなくなったらしいこの世界ではなんら問題のない話だ。
昨夜の件で問題を強いて言うなら私がTKの部屋に夜這いしたという事実であるのだが……ある意味それが一番問題なのかもしれない。
「吸血鬼だから血のためにTKの所に忍び込んだけど、どうやらこの世界にきて吸血鬼じゃなくなったみたいだからその必要ないみたい。お騒がせしたね」
もう行かないよ安心して、と私が告げてカレーにスプーンをつけてTKを見、固まった。
「……何その顔」
「…………」
へこんでいるような、不服そうな顔。私が口端を引きつらせて聞き返せば、彼はぼそりとつぶやいた。
「I'll unlock the window and wait tonight...」
その言葉を私が固まった。文法や翻訳をしたらきっと間違っているのだろうが意図は伝わった。私の脳裏に昨日の晩の情景が浮かぶ。さらさの金髪がベッドの上で広がって、アイガード代わりの赤い布の下から覗く月夜に反射して光る碧眼。一気に私の血の巡りが良くなる。
「ばっ、馬鹿なの!?吸血鬼じゃなくなったんだからだ、だ、誰が行くか!!」
完全に冷めたカレーを置いて私は立ち上がった。TKの横を通り過ぎて行くとき彼がまた私に呟いた。
「……っ!!」
その言葉に私は多分赤いであろう顔で彼を睨んで走り出す。走り出す前にみた彼の顔は笑顔。負けたみたいで悔しくなった