私には彼氏がいる。知的(に見えるが実はお馬鹿)で、インテリっぽく(に見えるが実はお馬鹿)て、理系(に見えるが実は体育会系)の恋人だ。
「さん?どうしました」
「いや別に、何でも、ないよ」
「……その間は何ですか」
作戦本部と言う名前の校長室で皆が集まっている中、彼は来客用ソファーで熱心に眼鏡を拭いていたので私は彼の膝を占拠してごろごろしていた。私たちのバカップル振りは目に余るらしくそれはもう周りからはブーイングの嵐な訳だが、身につけたスルースキルで華麗にかわしてから彼の膝で目を閉じた。
「ずっと眼鏡拭いてるの見るのも飽きたよ。構って。構ってよ、馬鹿、もういい、寝るから」
素直に思っていることを言うと、彼はもうちょっと待って下さいの一点張りで少しもこちらを見る気がしない。高松内部の天秤がぐらりと私よりも眼鏡に傾いている図式が見えて急に不愉快になった私は完全に寝るモード。
「……拗ねないでくださいよ」
「眼鏡と結婚すれば?……これ寝言だけどね」
「どれだけハッキリした寝言なんですか」
目を閉じてる私には彼がどんな顔してどんなことしているかは全く分からないが、私は寝るのだ、寝ているのだ。
「……もう眼鏡拭くの止めたのですが、まだ寝てるんですか?寝てる人」
「まだ寝てます。久々に拗ねてます。当分起きませんのでよろしく」
「そうですか、熟睡ですか?」
「そうです、熟睡です。ちょっとやそっとじゃ起きません」
今度は私が寝て高松が暇になって構ってほしくなって私の気持ちを知ればいいんだ、と躍起になって寝たフリをする。
困りましたね、と言葉が聞こえて数秒。耳元にふんわり温かい風が舞い込んできた。その風は意図的なもので、外側だけではなく耳の奥まで勢いよく入り込んで来た。背中に悪寒のようなものが走って私は飛び起きる。
「っ何すんの!!」
「おはようございます」
「…………」
何食わぬ顔でそう切り返す彼を真正面から見て、私は大きなため息をついた。
「……やっとお目覚めですか?」
「最悪な寝起きだけどね」