04 小恥ずかしい決め台詞
「おぉ~~~!!」
一部の男たちから感嘆が、校長室に響く。
彼らの視線は、下ろしたばかりの私の制服に注がれていて……なんとなく、照れくさい。
手持無沙汰なのが気になって、手を宙に漂わせたあと、スカートの裾を掴んだ。
「前線に華がッッ!!」
「ああ、これは華やかになるな」
「そ、そうかな……?」
生前、どちらかというと男子と張り合ってばかりの学校生活だったから、過剰な女の子扱いをされると反応に困る。
ちなみに野田はさっきの感嘆の中にはいない。部屋の隅に転がされて、いまだ気絶真っ最中である。
「可愛い可愛い言ってるけど、彼女、野田君に鍛えられたんでしょ? それだけじゃないわよね」
「いやー、でもまずは華やかになる事実について喜んでおきたいっしょ」
日向君が笑顔で手首にスナップ利かせてゆりに言う。違いねぇと続く藤巻くんも笑顔で、歓迎ムードに戸惑いしかない。
「それに戦力になるなら、なおのこといいじゃないか」
「本当に、なるならいいんですけどね」
松下五段の言葉の後、高松君が眼鏡の縁を上げた。
レンズの反射で彼の目は見えないが、そのセリフには私の実力についての疑いが交じっていることは明白だ。
すると今度は、校長室の暗がり――隅に居た椎名さんがずいと前に進み出た。
「なるほど…。では私が測ろう。、ナイフを持て」
「あ、うん」
私がホルダーからナイフを一本取り出して手に持つと、椎名さんは何か飛び道具を数本此方に向けて投げつけた。
「うわっ!?」
「ちょっ! こんな狭いところでドンパチかよ!!」
日向君の悲鳴虚しく、椎名さんの攻撃は止まらない。
私が飛び道具を避けると、椎名さんは短刀を手に此方に切りかかってきた。
「!」
私は右手のナイフでそれを受け止める。鍔迫り合いをしたまま、私は順手に持っていたナイフを逆手に持ち変える。
そうして刃を滑らせる方向を変え、鍔のない短刀を持っている椎名さんの持ち手を狙ってナイフを滑らせた。
「くっ!」
椎名さんも素早く反応してか、すぐさま私から距離を置いた。
お互い武器を構えたまま相手の出方を伺い、牽制する。そうして辺りには緊迫した空気が流れた。
「す、すげぇー…」
「椎名とやりあうなんて…」
「綺麗な花には棘があるとはよく言ったものだ」
刃をぶつけ合う私達に男子たちが感嘆している――。
不意に、私と椎名さんの間にあるものが飛び込んできて。私達はまた距離を取る。
「おい、どういうつもりだ」
私たちが声の方へ向くと、気絶していた野田がゆらりと起き上がっていた。
彼に手にはいつものハルバードがなく、さっき間に割り込んだのがそれであることは明白だ。
「……何がだ」
「は俺らの仲間になった。なのに何故、刃を向けている」
「いや、これは小手調べ……」
「それ以上そいつに手出しするならば!!」
野田は椎名さんや藤巻くんの言葉が耳に入っていないのか、厳しい顔で叫ぶ。
「俺が相手をするぞ」
しんと、一気に校長室が静まり返る。
確かに野田は気絶していて、状況をまったく把握していない。端から見れば、私が味方から刃を向けらえて孤軍奮闘しているように見えたのだろう。わかる。わからなくもない。順当に見ればそう見えることは否定できない。けれど――。
「………」
私はさっきの野田の台詞を思い返して、じわじわと羞恥心がこみ上げてきた。
私をかばってくれてのセリフは、確かに嬉しい。けれどあんな雰囲気で叫ばれたら、普通に恥ずかしい。
「………」
「な、何なんだ!!」
全員の冷ややかなような、生暖かいような。微妙な視線が野田に注がれて、やっと自分と周りの温度差に気が付いた野田は焦り始めた。
その中で校長椅子に座っていたゆりが、ため息をつきながら足を組みかえる。
「椎名さんは、さんの腕前を見るために手合わせをしていただけよ」
「……本当か?ゆりっぺ」
「嘘言うわけないじゃない」
ゆりがため息をつくと、野田はそうかと呟いて顔をそむけた。彼がどんな表情をしているのか、私から見えることはできない。
そんな野田を追撃するように、日向君が口を開いた。
「っていうか、かなり恥ずかしい台詞だよな。今の」
「黙れ!!!!!」
野田が日向君を追ってハルバードを振りかざし、また校長室を騒がしくなる。
そんな騒ぎの中でも、私はまだ野田の小恥ずかしい台詞が耳にこびりついていて。なんとなく、頬を押さえた。