認めてなんてやるものか
「貴様らはまだ懲りないのか」
どしゃ降りの中、生徒会長代理――直井は笑う。
雨のブラインドを通して、私はあざけるように笑う彼を睨みつけた。
ゆりっぺの睨んでいた通り、直井は動きを見せた。
校庭にいた何人かのSSSメンバーを、粛正と称して撃ち殺したのだ。私の内線によって、いつもの前線メンバーも参戦して、校庭が混戦状態に陥る頃は――雨が降り出し、土に広がる血だまりが雨だまりを赤く染めていた。
「諦めが悪いことだ」
「……黙れっ……!」
いくつもの銃弾で撃ち抜かれ、身体のあちこちが痛む。
最初から即時参戦し、SSSの非戦闘メンバーをかばって戦っていた私は既に血だらけ。息が上がり、口からはひゅうっと変な呼吸が聞こえる。
「貴様らが一般生徒に手を出さないのは本当らしいな」
「………」
「くくく、妙な縛りをしてこのザマとは。まったく呆れる」
そう言って周りを見回す直井の視線が私から外れるのを見て、私は一気に距離をつめる。
長槍のリーチ内に駆け込み直井の心臓を狙おうとして――ちらりと目だけで此方を見た直井の銃に、簡単に膝を撃ち抜かれる。膝の力が抜けて、前のめりに転んで顔から泥だまりに突っ込んだ。
「ぐっ……」
「本当に無様だな」
直井は私の髪を掴んで引っ張り上げる。見える情景は悲惨としか言いようがなかった。
普段前線にでている藤巻や松下五段――いつものメンバーですら、一般生徒であるNPCに危害を加えられずに防戦一方。結果、銃弾に倒れている。
「さて、残るはやつらだけか」
直井が目をやった方向に視線を送ると、そこには背中合わせに武器を構え、銃を持った一般生徒に囲まれた野田とゆりっぺの姿があった。
「ゆりっぺ、野田……」
私が二人の名を呼ぶと、直井は私の頭を地面に放った。
立ち上がって生徒会の生徒に耳打ちをしている間に、私は手元に転がっている己の武器を再度掴む。
――しかし、一発の銃声と共に、その手の甲に痛みが走る。
「ぐっ……!」
「往生際が悪いぞ」
もはや撃たれた手をかばうことすらできず、槍の柄を握る握力すら失ってしまった。
「! あれは――」
「さん!? っきゃあ!!」
「ゆりっぺ!!」
地面に突っ伏しているせいと、視界いっぱいの雨でよく見えない。
銃声で野田とゆりっぺが私に気づいたのはわかったが、その後がどうなっているか見ることができなかった。
視界が血でにじむのを感じていると、私の上に誰かが乗ったのがわかる。
「ちょっと、放しなさい!さんの上は止めなさいよ!!」
「ゆりっ……ぺ?」
「さん!酷い怪我……!」
微かに呼べば、ゆりっぺの声がする。どうやら捕まってしまったらしい彼女が、私の上に放られたようだ。
再度私の髪の毛は、直井によって乱暴に掴みあげられる。
隣には傷だらけだが、相変わらず綺麗なゆりっぺの顔。目の前、数歩の距離には野田がハルバードを携え立っている。
「おい。そこの貴様、選ばせてやる」
「何……?」
私たちと同じで傷だらけの野田が、眉間に皺を寄せる。
視界の悪い私の右目に固いものがゴリゴリと押しつけられて、違和感に顔を歪めた。
「その距離ならどちらか一人、引き金を引く前に助けられるだろう?」
ゆりっぺのこめかみには洗脳された一般生徒が銃口を向け、直井は私の右目に銃口を当てる。
――私達は、野田の前で天秤にかけられた。
「さあ、どちらにする?」
「ッ、貴様……」
直井に問われた野田は、顔を歪ませて怯む。
何を迷っているんだ、何を、何故。迷う必要なんて無いだろう。私達が守ってきたのはどの女の子だ。誰よりも先頭に立ち、弱音を吐かず、皆を引っ張ってきた女の子だ。
だから私が彼に全てを伝えるのに、複雑な言葉は要らなかった。
「ッ、野田ぁぁあぁああ!!」
――選べ!躊躇なく、彼女を!!
私の叫びに、はじかれるように野田が動いた。
私が左目で見た風景には、ハルバードのリーチで銃を弾き飛ばし、ゆりっぺを引き寄せて抱き締める彼が映った。
それを最後の風景に。訳もわからないほどの、頭が裂ける痛み。
その感覚を最後の感覚に――私の視界はシャットアウトした。