――拾って、しまった。
 下水道の家、ガイズたちの拠点を掃除していたらとんでもないものを見つけてしまい、私は立ち尽くした。
 悪意はない。そもそも知っていたわけでもないし、拾ってしまうまでは気付かなかったのだ。ただ私がドナテロに片思いをしているだけかと思って悩んでいたというのに、まさかこんな、こんな形で……

(ドナテロの告白カンペを拾ってしまった。……しかも、私宛てじゃないか。これ)

 知るなら告白をされて知りたかった。どうせなら、ドナテロの上ずった声で呼び止められ、空気を感じ取って「もしかして」なんて期待を抱きながらドキドキして、告白されて甘酸っぱくて照れくさい気持ちになりながら私も好きだよなんて返事をする、そんな恋を体感したかった。

(こんな形で知ることになるなんて……ああ、私の馬鹿)

 とはいえ、ニューヨークを護るお仕事しているガイズたちを、私なりに応援しようと部屋の掃除をしていただけだ。だから多分私は悪くない。これは不可抗力なのだ。

(……にしても、びっしり書いてるなぁ)

 カンペらしく、小さな紙に小さな文字でびっしりと文字が並んでいる。あの太くて大きな指でどう書いているのか想像もできないくらい細かくて先生な文字の羅列。しかも、何パターンも想定しているようで、振ってある番号は20を越えている。ドナテロらしいといえば、確かに彼らしい。

「ただいま、

 なんて考えていたら背中から声がかかって、私は心臓が飛び出すかと思うほどにびっくりした。ビクリと肩は跳ねたが、幸い彼が見ているのは私の背中だけなので、振り向いた時にはカンペを隠して表情を整えることができた。

「ドナテロ、おかえり。……ほ、他のみんなは?」
「ん?置いてきた。車の運転できるのは僕だけなのに、あまりに扱いが雑だったら。もうみんな僕のことなんだと思ってるんだろう。便利屋かなにかと勘違いしてると思わない?」
「そ、そうなんだ」
「あの距離なら、普通に移動したら1時間くらいはかかると思うよ。だから……」

 そこまで言って、ドナテロは『1時間くらいは二人きり』である事実に気が付いたのか顔を赤く染めた。私も私で、告白カンペなんてものを拾ってしまったせいか妙に気恥ずかしくて、何となく黙ってしまう。

「…………」
「…………」
「……ま、まぁレオナルドもいるし、みんな無事帰ってくるよね」

 場をつなぐためにそういうと、ドナテロはぴんと背筋を正して目を泳がせた。

「あ、あー……ってさ、レオナルドのこと……その、気になってる、とか?」
(こ、これは……)

 告白カンペで見た展開だ。
 話し始めるきっかけの3番目に書かれていた「他の兄弟から恋愛話に持っていく」だ。こうしてカンペを知ってしまった後だと、わざとらしさが残って聞こえてくるがそれは彼の演技力がダメなのではない。事前に展開を知ってしまっているチートな私が悪いのだ。

「ど、どうしたの?突然」
は、よくレオナルドの話をしてるからその、そのー……」
(頑張れ、ドナテロ!『好きなの?』って続けて恋愛話に……!)
「そ、尊敬してるのかなー……なんて」

 これがギャグなら私は今ずっこけていた。カンペではまだ出だしのうちなのに、早くも想定から脱線しているんだけどそれはいいんだろうか。

「尊敬は、まぁ……してるよ。年の割にしっかりしてるし」
「そ、それじゃあ……レオのこと、す、す……」
(くるか!『好きなの?』来るか!?)
「スマートだって、思ってるんだ……?」

 なんだそれ!どんな印象の聞き方したらそうなるの!!大声で叫びたいのをぐっと我慢して私はじっとドナテロを見つめた。私の心の内を知らない彼は、私の視線にうっと小さく呻いて怯む。

「スマートじゃない?まぁ、格好つけようとするとドス効くけど」
「それじゃあ、その、は、そういう人のが……いいんだ?」
(お、おおっ……!方向性はちょっとずれたけど、進んだ……!)
「……?」
「え?ああ、うーんでも、私はスマートじゃなくて全然いいと思うよ」

 こうやって見ていてもどかしいくらいのドナテロが好きなわけですから。スマートさなんて微塵も求めていないことを笑顔で告げると、ドナテロは心底ほっとしたような表情を浮かべた。いやいやドナテロさん、また告白全12行程の1つ目ですよ。

「そ、それじゃあ……ラファは?」
「……ん?」
「ほ、ほら。ラファエロともよく話してるだろ?たくましい方がいいとか……」
「…………」

 もしや、やっと終わったかと思った1行程を、ラファエロの分とミケランジェロの分、もう一回ずつやるつもりなのだろうか。この男は。
 ふつふつと湧き上がってきた感情に突き動かされるまま、私は明後日の方向を見ているドナテロの元にずかずかと歩み寄った。突然の行動に驚いたドナテロは、目を瞬かせて私を見る。なんだそのおびえた表情は。鬼のような形相でもしているというのか。

「ど、ど、どうしたの?」
「長い、長いよドナテロ!!まだ12行程中1行程だよ!しかも終わったんじゃなくて進行中だよ!?」
「へっ!?な、なんで行程数知ってるの」
「カンペ!落ちてた!!」

 拾った3センチ平方の紙を突きつけると、彼は目を見開いて懐を探り、自分がカンペを持っていないことを確かめた。そして持っていないことを確信するとさっと顔を青くする。

「う、うわあああっ!ど、どうして!?」
「だから落ちてたんだって。長すぎっ!女子だったら星空見てても長いと感じるレベルだよ!」
「いやだって、全然想定通りに進まないというか、想定してたパターンが頭真っ白で忘れちゃったというか!っていうか最初から知ってて聞いてたの!?趣味が悪いよ!」
「その趣味の悪い女が好きなのはどこのどいつだ!」
「それは僕だけどさっ!……あっ」

 真っ青だったドナテロの顔が、今度は面白いくらい真っ赤になって、メガネの向こうの瞳がまた明後日の方向を向いてしまった。

「うん、知ってる。ちなみに言うと、そんなちょっと面倒で遠回りな男が好きなの。私」
「きみ、趣味が悪……えっ?」
「あのさ、カンペいらないよ。もうお互い知ってるんだし、ひと言で良いんだって」
「知って、お互い?えっ?……それって……」
「いいから一言、一番大事なことだけ言え!!」

 ひいっ!なんて悲鳴を漏らしながら、目をそらしたドナテロはやけくそ気味に叫んだ。

「す、好きなんだっ!!!」
「……うん、私も好き!」

それが正解

(はい、とってもよくできました)