※グロテスク表現アリ、注意
※貴方がヤンデレ
「信じられるわけねぇだろうが」
ソファーに座ったままのラファエロは、心底忌々しそうにそう吐き捨てた。
みんなでピザを囲んで食べ、デザートのリンゴをむきながら、私はさらりと彼に「好きなの」と告白した。みんなの前で話したのは、祝福してほしいから。レオナルドに相談していたからその報告を兼ねて、兄弟たちに証人になって欲しかったというのもそうだ。
だというのに、告白されたラファエロは、眉間にしわを寄せてそう言ったのだ。
さすがのマイキーも、その一言には茶化していた口を閉じ、その場はぎすぎすした空気が充満している。
「……どうして?」
「どうもこうもねぇ。俺らは亀でミュータント、お前は人間だ」
「だから、どうしてそうなるの?」
「お前、本気でミュータントを好きだと思ってんのか?ハッ、いかれてるぜ」
「おい、ラファ!!」
さすがのレオナルドも耐えかねて、がたりと椅子から立ち上がった。それでも、ラファエロの視線は冷たい。
「お前、もう少し言い方ってものがあるだろう!」
「ねえよ。これ以上はねえ。ちょっと普通じゃないもんと仲良くなったからそう錯覚してんだよ」
「…………」
「ラファ。彼女のことを心配するのはわかるけど、さすがにそれはひどいんじゃない?」
「そーだそーだ!かっこつけるにしたって、かっこついてないし!」
黙り込んだ私に、2つの援護射撃が加わるが、ラファは相変わらず頑なに態度を改めようとはしなかった。
いやだけど、ラファエロの言いたいこともなんとなくわかっていた。彼は、自分が社会において異端であることをわかっているからこそ、私の道を正そうとしているのだと。こういった覚悟をした時のラファは、本当にテコでも動かない。頑固で、強情で、でも優しい。私はそんなラファエロが心底好きだった。
「ふふ……」
「……?」
「ラファは優しいね。私はそんなところが好きなんだけど」
「…………」
仏頂面の彼は、否定をせずに黙り込んだ。そんな彼を好きだという想いが胸の中をぐるぐると渦巻いて、渦巻いて……渦巻きすぎてどろどろとしたものに変わっていく。笑顔の下で胸の中にたまったドロドロとした想いが、胸からあふれて喉からこぼれそうになる。
「でも、今日は認めてもらうまでは帰らないよ。私が好きだってことを受け入れてくれるまでは帰らない」
「んじゃ、お前は一生帰れないな。ここにでも済むか?」
「帰れないかどうかはわからないよ。帰れるかもしれない、ラファが信じてくれれば今すぐにでも」
「信じねえよ。信じられるわけねえだろ。口だけならなんだって言える」
ラファエロは鼻で笑って、すこしだけ悲しそうに眉を寄せた。彼の中でも、疑う気持ちと信じたい気持ちが戦っているのかもしれない。いつもなら、その微細な表情の変化だけで答えとしては十分なのだけど、今日はそのテコでも動かない口からYesと言わせると心に決めたのだ。
「それなら、今すぐ証明してあげるね」
「は、どうやって……」
私はリンゴをむいていた包丁を振り上げた。
ラファエロが目を向いて、レオナルドが手を伸ばして、ドナテロが身を縮みこませて、ミケランジェロが叫んだ。
それでも私は容赦なく、迷いなく包丁を振り下ろす。私の、小指の付け根に向かって。
「っ……!?」
息をのんだのは私じゃなく、ラファエロの方だった。ドツンという分厚い肉が切れる音がして、一瞬息が止まるほどの痛みが頭のてっぺんまで駆け抜けて、なんだかハイな気持ちになってくる。リンゴの代わりに転がった私の小指を、笑顔で掴み上げた。
「日本ではね、指切りっていう約束の仕方があるの」
ぴゅ、ぴゅと中身の少ない水鉄砲のように、小指の断面から弱々しく血が吹き出す。早まった鼓動に合わせて、ちょっとずつ、ゆっくりと。
「今は指を結んで約束するんだけど、本当は違うの。大昔の日本で誓いを立てる時に、相手のことを思って小指を切り落として送ったからなんだって」
「お、まえ……」
「ラファ、これは私の誓いだよ。私の思いが詰まってるの」
私はそれを差し出した。あめ玉を差し出すような軽いしぐさで、笑顔を浮かべて、ラファエロに向ける。
周りで三人が何か騒いでいるが、何を話しているかわからないほどその声は遠くて、私の世界には彼と私の二人しか見えない。
さっきまでラファエロの中にあった、頑なな何かが瓦解する音が聞こえた。
「ねぇ、信じてくれた?愛してるの。本当だよ」