「お前、なんでマイキーのことばっかいじってんだ?」
リビングにあるピザの宅配箱できているソファーに座っていたところ、レオとラファは私の横に立つなり呆れたように私へそう告げた。その後ろには、不満げな視線のマイキーが警戒半分にこちら見ている。
「別にいじってないけど?」
うっすらと笑顔を浮かべて答えると、盾になっているレオとラファは顔を見合わせ、困り顔で背にいるマイキーを体半分に振り返った。
「……だとよ」
「いーやいじってくる!僕だけめっちゃいじってくる!!」
「というか、いじってくるってどんな風にだ?」
長男よ、それはむしろ私のところにくる前に聞くことじゃなかろうか。私が心の中でつっこみを入れていると、マイキーは今までのことを思い返しているのか徐々に眉間のしわが深まっていく。
「僕のことだけめちゃくちゃ子供扱いする」
「……子供扱い?」
「そう!とにかく子供扱い!!」
不服そうに頬を膨らませて、いらいらと体を揺するマイキーがあまりに可愛くて、私の頬は自然とゆるまっていく。必死に引き締めようと思ったが、ぜんぜん顔の筋肉は働かない。
「ほら!!ほらなんかにやにやしてる!」
「うわっ。すごい顔になってるぞ、……」
「笑ってんのか笑ってないのかはっきりしろよ」
「絶対小馬鹿にしてるよ、脳内で!」
「してないしてない、ぜーんぜんしてない」
「なんだか悦って顔してんぞ。ホントに大丈夫かよ」
さすがに女性として『悦』はまずいかもしれない。私は顔をきゅっと引き締めてその維持に徹する。レオが「あ、戻った」と解説するのが聞こえて、心の中でガッツポーズ。威厳は維持できた……はず。
「ああまた考えてる!どうやって僕のこといじるか考えてる!」
「真顔だといじり方を考えてるのか!」
「話だけ聞くととんだ変態だな」
「失敬な!私は考えてない!本能のままに愛でているだけだ!!今さっきはマイキー可愛いなって思ってただけだし!」
「そっちの方がやべぇよ……」
ラファがドン引いて半歩引いたところで、騒ぎに気がついたのか、ヘッドフォンをしながらモニターにむきあっていたドナテロが椅子をきゅっと半回転してこちらを振り返った。背もたれに肩肘をおいて、呆れたようなため息をついている。
「いいんじゃない?放っておけば」
「ドナ冷たい!!」
温厚なドナの突き放した言いぐさに、ラファとレオは顔を見合わせた。しかし、彼が理由なくそんなこと言うはずはない。どういうことだと訴えた視線が二人分、ドナテロに注がれる。
「どうって、どう考えても子供なんだよ」
「……子供?」
「マイキー、きみが葬った被害は?」
面倒くさそうにマイキーに振ると、彼は眉間にしわを押せてゆっくりと三本しかないゆび折って数え始めた。
「ええと、赤ちゃん言葉で話してくるし、めちゃくちゃに撫でてくるし、僕のDJの邪魔してくるし、足引っかけてくるし抱きついてくるし!!」
「…………」
「…………」
約二人が黙り込んだ。不満そうに言葉を漏らし続けるマイキーのくちから出てくるのは、本当に幼稚園児……ないし小学生レベルのいやがらせの数々。なるほどこれは放っておいていいと思ったのだろう、壁になっていた二人がすっと半身を引いて道を空けた。
「あっ、ちょっ……!ふたりとも、薄情者!!」
「マイキー隙ありぃーっ!!」
モーゼもびっくりなほどあっさりと道を空けたレオとラファの間に全力ダイブで飛び込んだ。もちろんそこには二人の背中に隠れていたマイキーがいて、私は全体重をかけて彼にのしかかる。そして、勢いに押されたマイキーは私を抱えたまま後ろに倒れ込んだ。
「うわああっ!!」
私を腹甲に抱え込んだまま、仰向けに転ぶと……もう逃げられない亀さんの起き上がれないコンボの完成だ。身軽な彼なら一人で起き上がれるかもしれないが、今はもれなく私がマウントをとっている状態なので起きあがることはないだろう。
「はぁぁ……拗ねてるマイキーもかわいいなぁ」
「また可愛いって言った!僕はね、クールでワイルドな大人になるって決めてるんだよ!可愛いっていうなーっ!」
「あーそうやって背伸びしてるところも可愛いよ、本当に可愛いよ!」
「だーーかーーらーーっ!!」
もうこうなったらこの気持ちは止められない。胸の奥は可愛いマイキーに萌えていつもきゅんきゅん鳴っているし、可愛すぎてこねくり回したくてしかたない。愛でたすぎて少し手に力がこもってしまうけど、なんとお誂え向きにミュータントの彼は頑丈なのだ。私程度の全力でこねくり回したところで痛くもかゆくもないだろう。
「ああもう、これがエイプリルな最高なのに!」
「そんなこと言わないで!ほら、当ててるから!」
「いやだよ、どうせ当てられるならエイプリルがいいよ!エイプリルううう!」
感情のままに、理性をとばしてすがりつく私に感化されたのか、マイキーも抵抗する言葉が幼くなっている気がする。それでも可愛さに拍車がかかるだけで、愛でることに何ら影響はない。私がすりすりとマイキーの頬に頬ずりをし続けた。
「あれを毎回やられるなんて……僕じゃなくてよかった」
「マイキーがいやがるなんてよっぽどだな」
「……そうか?」
不思議そうなレオの言葉に、避難していた兄弟たちは不思議そうに長男を見る。その目が細められて、うれしそうに口角があがった。
「……まんざらでもないようにみえるけどな。俺は」